我々は、新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「機能性蛋白質集合体応用技術プロジェクト」に参画し、免疫細胞の貪食機能を人工構造物に再現することを最終の目標として研究を行っている。
マクロファージ等の貪食能を有する細胞群の膜表面には免疫グロブリン(IgG)に対する数種のレセプター分子(Fc γ R)が存在し、貪食機能に必須の役割を果たしている。
その近傍には抗原抗体複合体を細胞内に取り込むための各種シグナル伝達分子が存在し、それらの活性化により細胞骨格系蛋白質の動的変化が導かれ貪食が起こると考えられる。
我々は、細胞表面で抗原抗体複合体を認識するFc γ Rと細胞内情報伝達で重要であると考えられるSykキナーゼを細胞膜を貫通して一つの蛋白質分子上に機能できるようデザインした。
昆虫細胞等の非貪食性細胞にこの融合分子を発現させ、IgG感作赤血球をかけると、細胞は赤血球を取り込み強い貪食能を示した。
すなわち抗原抗体複合体を認識し細胞内へ貪食を指令するための多分子機能を1つの分子に集約した人工エトリガー分子の作製に成功した。
今後、さらに貪食に必要な要素が明らかになり、人工的に再構成された「人工白血球の技術」が実用化されれば、がん細胞などの異物を体内から選択的に排除するような医療目的や混合物から特定の物質を濃縮するような産業上の応用が期待される。
(松崎淳一)