育児用ミルクの原料である牛乳のタンパク質は、母乳のタンパク質と全く同じではなく、ヒトにとって異種性を持つ抗原となります。このため、乳幼児によってはミルクに含まれる牛乳タンパク質によってアトピー性皮膚炎や下痢症などのアレルギー症状を引き起こす場合があります。
牛乳タンパク質の異種性(抗原性)は、タンパク質分解酵素で加水分解し低分子化することによって低減することが可能です。このため、ミルクアレルギーの治療または予防の目的で、ミルクに配合する牛乳タンパク質を予め加水分解(酵素消化)した各種のペプチドミルク(タンパク質加水分解乳)が提供されています。
タンパク質加水分解乳は『高度加水分解乳』と『軽度加水分解乳』に区別され、前者はミルクアレルギーを発症した乳幼児の治療のために、後者は両親や兄弟姉妹にアレルギー疾患の家族歴がある、いわゆるアレルギー疾患のハイリスク児など、牛乳タンパク質の摂取をひかえたい乳児に適したミルクです。
一般的には、『ペプチドミルク』とは後者の軽度加水分解乳のことを指しています。
わが国で販売されている代表的なペプチドミルクとして、森永「E赤ちゃん」などがあります。これらのミルクは、牛乳タンパク質の異種性を低減するためにすべてのタンパク質を予め酵素消化し、消化吸収されやすいペプチドのみをタンパク質源として配合しているため、アレルギー疾患の家族歴を有する乳児が哺乳しても、牛乳タンパク質に対する抗体ができにくくなることが臨床的に確認されています。
このようなペプチドミルクに配合されるペプチド(タンパク質加水分解物)は、免疫原性(*1)がほぼ消失する程度の限定的な処理に止められていますので、タンパク質の加水分解によって生じる遊離アミノ酸に起因する苦味や異味はそれほど強くありません。
また、タンパク質以外の栄養成分は通常の乳児用ミルクと同様に配合され、ビフィズス菌増殖因子として各種プレバイオティクスを配合するなどの配慮も通常の育児用ミルクと同様に実施されており、母乳が不足するときや与えられないときに母乳の代わりに使用することができます。
しかし、ペプチドミルクはあくまでも軽度加水分解乳であり、牛乳タンパク質の抗原性(反応原性*2)は完全には除去されていません。このため、すでにミルクアレルギーを発症している乳児にはペプチドミルクを使用せず、タンパク質の反応原性が著しく低減された高度分解乳(ミルクアレルギー疾患用ミルク)を使用する必要があります。
*1 免疫原性:抗原として認識され、特異抗体の産生や、リンパ球を感作する性質。
*2 反応原性:特異抗体や感作リンパ球と反応する性質
(清水隆司)