ラクトフェリシン(LFcin)は、ラクトフェリン(LF)のペプシン消化で生成する抗菌ペプチドで、1992年に発見されました。LFのN末端側から得られ、塩基性アミノ酸を多く含んでおり、ディフェンシンやクリプチジンなどの自然免疫を担う抗菌ペプチドの一群に含まれます。ウシ由来のLFcin Bは25残基、ヒト由来のLFcin Hは47残基からなり、それぞれNMRによる立体構造が報告されています(図1、2)。
はじめ、LFcinは試験管内でのペプシン消化実験で見い出されましたが、その後の研究で、LFを摂取したヒトや動物の胃内でも生成することがわかりました。そのため、LFを摂取したヒトや動物の消化管内において、LFとともにLFcinがなんらかの生理機能を発揮しているものと考えられます。
LFcinの生物活性の特徴は、その強い抗菌活性と多機能性です。LFcin Bの抗菌活性は、重量ベースでウシLFの数十倍~数百倍程度強いものです。腸内微生物の中では、大腸菌、クロストリジウム、及びカンジダなど多くのグラム陰性・陽性細菌、及び真菌に対して抗菌活性を示しますが、ビフィズス菌に対しては抗菌活性を示しません。LFcinの抗菌メカニズムは、微生物の膜障害を中心とし、細胞質にも入り込んで作用する殺菌作用です。一方で、なぜビフィズス菌を抑制しないのか、今後の研究課題です。最近の興味深い研究として、肺炎レンサ球菌に対するLFの殺菌活性の発揮には菌自らが作るセリン・プロテアーゼが必須であり、この酵素によってLFからLFcin様ペプチドが切り出され、それが作用して殺菌されるということが報告されました(Infection and Immunity, 2011, vol.79, p.2440)。
また、LFcinは、抗酸化活性、抗炎症活性、免疫調節活性、及びがん細胞傷害活性など多くの機能を示します(Current Pharmaceutical Design, 2003, vol.9, p.1277)。その多くは、本体のLFの機能とオーバーラップしており、最初にLF、消化されてLFcinという形で、体内で2回作用できるようになっているのかもしれません。
(若林裕之)