植物性乳酸菌と動物性乳酸菌はどう違うのですか?
乳酸菌は、糖を代謝して多量の乳酸を作るグラム陽性細菌の総称です。乳酸菌は、発酵食品(ヨーグルト・チーズ・漬物など)や植物、ヒト・動物の腸、さらに海洋環境など、地上の多様な場所に生育しています。これらから分離された乳酸菌株は、細胞の形態、生化学的性質、ゲノム情報など多くのデータによって、各々特定の菌属や菌種に同定されます。もちろん、同じ菌属・菌種の菌株どうしは、たとえ分離源が違っていても基本的性質や遺伝子情報がほとんど同一であることがよく知られています。
それでは、「植物性乳酸菌」と「動物性乳酸菌」という用語を考えてみましょう。(「 」は“カッコ付き”という意味で付けました)「植物性乳酸菌」は、植物から分離され植物質を発酵して生育する乳酸菌で、対比として用いられる「動物性乳酸菌」よりも様々な環境でよく生育し安全で親しみやすく体に良いとも言われているようです。
しかし、科学的に考えると、乳酸菌を「植物性」と「動物性」に二分する考えは正しいとは言えません。なぜなら、「植物性乳酸菌」の代表とされる ラクトバチルス・プランタムやラクトバチルス・カゼイなどは、植物からもヒト腸内や他の素材からも分離され、それらの株には微生物学的性質の違いはありません。逆に、チーズを作る乳酸菌ラクトコッカス・ラクティスや、ヨーグルトを作る2種の乳酸菌は、乳や乳製品はもちろん植物からも分離され、植物質を発酵して生育できます。もちろん、「植物性乳酸菌」が植物の性質を持っていないことは常識です。なにせ植物ではなく細菌なのですから。
繰り返しになりますが、分離源が違っても同じ菌種の菌株は、性質や遺伝子がほぼ同一ですので、分離源などを根拠にして「植物性乳酸菌」や「動物性乳酸菌」に分けることには多くの矛盾があります。乳酸菌を区分する場合は、あくまでも科学的な分類に基づいて議論することが必要です。分離源を示したい場合は、○○由来乳酸菌、乳酸菌○○分離株などと呼ぶのが良いでしょう。
また、乳酸菌が示す健康効果などは、同じ菌属・菌種で共通な面もありますが、菌株によって大きな差があることも広く知られており、植物や動物など分離源によって効果が分かれるということもありません。