2024年6月
はじめに
2015 年に上野川理事長から理事長職を引き継ぎ早10年近くになろうとしております。当学会の会員の皆様のご理解とご協力を賜り、ご一緒に、本財団の未来を見据えて、腸内細菌学の学術的発展・訴求と社会貢献を果たす公益財団法人としての改革を色々と取り組んでまいりました。その取り組みを進めるに当たり常務理事会(表1)、各委員会メンバー(表2)と総務局の皆さん(表1) には実働部隊として日々多大なるご尽力とご協力をいただき、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。また、 我々常務理事会の執行について、ご意見をいただき、運営にご協力いただいた理事会メンバー、そして大所高所から私達の運営について御指導いただいた評議員会の皆さまにも厚く御礼申し上げます。
退任のご挨拶の機会に、我々執行部で進めてきました事業と課題につきまして、総括も含めてご紹介させていただきます(表3)。皆様のご理解とご協力で、様々な課題に取り組んでまいりましたが、そのなかでも、先人達が築き上げていただいた歴史的背景と蓄積を基盤として、皆さんと一緒に当財団の将来に向けて具体的な検討を始めたことが思い出されます。
当財団の主な事業としては表3 に示しますように、 まず「学術集会の開催(学術委員会(表2))」、「腸内細菌学雑誌の編集刊行、BMFH の編集協力(編集委員会(表2))」、「ホームページによる情報発信(情報・広報委員会(表2))」、「研究奨励賞の選考および授与(奨励賞選考委員会(表2))」、「ティッシェメダル授与」等が挙げられます。これらの事業は財団の主要な活動として脈々と継続されてきたもので、これらの事業の積み重ねにより現在の当財団が存在するものであります
一方、常務理事会、理事会、評議員会での議論を経て、 平成29 年(2017 年)度より、企画総務国際委員会(表2) において、当財団の訴求する学術分野を次世代につなげ継続的発展を図るための議論を開始し具体案を作成する検討を開始しました。主な検討課題を表3 に示しますが、 その内容は当財団の学術的方向性、名称のあり方、財務状況改善、国際化対応など多義にわたり、そこからの答申・提案については、常務理事会、理事会、評議員会そして会員の皆様のご理解と賛同を得て具現化してまいりました。以下主要事業と主な検討課題について内容を記します。
主要事業について(表3)
1)学術集会の開催
当財団の学術集会「腸内細菌学会」は財団事業の根幹をなすものですが、学術委員会(表2)において委員長の神谷副理事長を中心に企画が進められ、2016 年第20 回から2024 年第28 回までが開催されました(表4)。各学術集会においては一般演題(ワークショップ)、海外特別講演、国内特別講演、奨励賞受賞講演、シンポジウム他が開催されております。2012 年度(第16回)からは若手発表者対象の発表セッションを設け、最優秀発表者を選考表彰することとなりました。また2018 年度(第22 回)からは市民公開講座を開催し「腸内細菌と健康」に関する情報を広く一般の人にも理解していただく取り組みを進めております。コロナ禍での集会制限などにより、2020 年度に札幌で計画した第24回学術集会(綾部時芳大会長)は史上初めての誌上開催、そして2021 年度の第25回学術集会(阿部文明大会長)はWeb 開催となりました。2022 年度第26回大会(岡田信彦大会長) からは現地開催を再開できております。2023 年度第27回大会(長谷耕二大会長)の参加者は616名となり大変盛況を博しており、本年の第28回大会(藤田史朗大会長)も盛況のうちに終わりました(コロナ禍での学術集会についての詳細は下記参照)。
2)腸内細菌学雑誌の編集刊行、BMFH 編集への協力
腸内細菌学雑誌は1987 年財団の学術雑誌「ビフィズス」として発刊致し、1998 年に「腸内細菌学雑誌」と改名しました。大草常務理事を委員長とする編集委員会(表2)により企画監修され、2016 年第30 巻より2024 年第38 巻を編集刊行致しました。記事としてその時代に沿った読者の興味を引く特集総説を主体に、研究室紹介、特許情報、財団情報などを掲載しております。近年の特集としては「腸内細菌研究における動物実験代替法の現状」、「腸内細菌と免疫、その最新情報」、「腸内菌叢はコントロールできるか?」などをテーマとして掲げ、 各分野の最先端の先生方にご執筆をお願いしております。
当財団は英文誌「Bifidobacteria and Microflora(1982 年~ 1995 年)」、「Bioscience and Microflora(1996 年~ 2011 年)」を刊行して参りました。2012 年より当財団と「日本乳酸菌学会」、「日本食品免疫学会」の3 団体の協力編集により、神谷副理事長を編集委員長とし「BMFH(Bioscience Microflora, Food and Health)」の刊行を新しくスタートし、2012 年第31 巻より2024 年第43 巻を刊行しました。39 巻1 号(2020 年1 月)にて冊子体を終了し、39 巻2 号よりWEB のみ刊行となりました。2018 年にIF(インパクトファクター)2.48 を取得し、その後も高い数値で推移し(2022 年3.1)、 国際学術誌してとしての知名度も向上しつつあります。 IF 取得後から海外(特にアジア圏)からの投稿が増え2024 年度では過去最高(140 件以上)の投稿数になることが見込まれています。
3)ホームページによる情報発信
当財団ホームページは情報広報委員会(表2:2015 年から2023 年まで五十君委員長、2023 年から長谷委員長) により管理運営されています。内容は「財団のお知らせ」、「学術集会最新情報(他学会も含めて)」、「学術誌の出版状況」、「用語集」、「よくある質問」など多岐に亘ります。本HP のアクセス数は、モバイル対応などにより近年に至り大きく伸び、ページビュー数として2021 年に約92 万件、ユーザー数として約60 万人となりました。しかしその後の伸びは頭打ちとなっており、ぺージビュー数100 万件の大台には達していません。アクセスの多くが「用語集」の学術用語を介してあることから情報広報委員会では「用語集」の充実、新規用語の検討・掲載を進めています。さらに一般の人を対象とした「よくある質問」についても順次掲載数を増やし、情報発信に努めています。
4)研究奨励賞の授与
当財団は優れた研究に対する研究奨励賞を1999 年より授与してきました。応募は推薦に基づき、腸内細菌叢と宿主とのかかわりあいに関連する分野において、学術上または産業上、将来の発展を期待し得る優秀な研究業績をあげた個人(受賞年度において40 歳以下)に対して授与するものです。2021 年度より基礎分野における研究に基づいた「基礎部門」と臨床分野(医学、歯学、 獣医学、薬学等)および応用分野(医薬品および健康食品の開発等)における研究に基づいた「臨床・応用部門」に分けて募集を行っています。応募された申請は神谷副理事長を委員長とする奨励賞選考委員会(表2)で厳正なる審査をして受賞者を決定します。2023 年度の受賞者は、基礎部門「竹内直志氏(スタンフォード大学医学部微生物・免疫部門)」、基礎部門「河本新平氏(大阪大学微生物病研究所 遺伝子生物学分野)」、臨床・応用部門「冨永顕太郎氏(新潟大学医歯学総合病院 消化器内科)」の3名に決定しました。上記3名を含めて過去の奨励賞受賞者は54名となります(ホームページ参照)。 受賞者は次年度の学術集会で受賞講演を行い、内容を腸内細菌学雑誌に投稿いただくこととなっております。
検討課題について(表3)
1)当財団の学術的方向性検討、名称の変更
当財団は、先人達の先見性により腸内細菌学研究があまり注目されていなかった1971 年(昭和46 年)に始まった「ビフィズス菌に関する腸内増殖研究会」を前身とし、財団発足時よりビフィズス菌をその名称に掲げてきました。ビフィズス菌の腸内環境における重要性はゆるぎないものですが、当財団としては将来にわたりビフィズス菌を含む多種多様な腸内微生物と生体との幅広い関係を学際的に広く深く訴求し、宿主の健康に資する基礎・応用研究活動を行う学術団体を継続的に志向し、 そのリーダーシップを担うことを明確にすることが必要との考えに至りました。当財団の礎を築いていただいた先人の先生方の御意見も拝聴し、また、当財団の根幹をなす会員の皆様の忌憚ないご意見を反映させるために、 アンケート調査など会員の皆様にもご協力いただきました。当財団がビフィズ菌にはじまる腸内細菌学を牽引する学術団体として活動を推進する為には、その中心である学術集会(腸内細菌学会)および学術誌(腸内細菌学雑誌)の名称と財団名の統一化を図ることは国内外における当財団の存在意義と発展、そして発信力の観点からも必要との結論に至った次第です。その結果、2019 年6 月、当財団は名称を「公益財団法人日本ビフィズス菌センター」から「公益財団法人腸内細菌学会」へと変更することを常務理事会で決定し、理事会、評議員会でご審議・承認を受けました。また、世界に貢献する唯一無二の腸内細菌学会ということで「日本」という冠は付けず、英語名も「Intestinal Microbiology Society」にした次第です。財団名称変更の詳細につきましては、当財団Web ページ「理事長メッセージ」をご参照ください。
2)役員の任期制、定年制の導入
2021 年度より常務理事会での議論を経て、企画総務国際委員会においてダイバーシティ進展、ジェンダーバランスの改善、さらに世代交代(新陳代謝)を進めることについて議論を開始しました。特に当財団の今後の運営体制において世代交代の必要性が議論され、当時ベテランが中心となっている財団運営に対して、次世代を担う先生方に、各自の研究活動に支障をきたさないことを考慮しながら、参画していただくことが、財団の継続的発展のために重要であるとの意見が纏りました。さらに、世代交代を継続的にスムーズに進めるために役員(理事、監事、評議員)の任期制、定年制を導入することが望ましいとの考えに至りました。他学会の任期制、 定年制の調査検討などを行い、「公益財団法人腸内菌学会任期制、定年制規則」として規則案を常務理事会で決定しました。本規則案を理事会(2022 年3 月)および評議員会(2022年6月)に諮りそれぞれ承認していただきました(表5)。
3)財団貢献者の顕彰制度の充実
任期制、定年制導入の検討に合わせて、当財団運営、 各種委員会活動や学術的貢献をされた会員の皆さん対する顕彰制度を充実させる必要性について企画総務国際委員会および常務理事会からご提案いただきました。本財団の現行制度、他学会の顕彰制度などを参考にして検討を行い、現在の「会員規定」を見直し、名誉会員規定については、腸内細菌学領域での学術的貢献に沿って会員外の方も対象とするなどの点を改定し、加えて新たに功労会員規定を設け役員以外で、日々の運営に尽力いただいた総務局員などの顕彰も可能とする案を決定し、理事会(2022 年3 月)、評議員会(2022 年6 月)で承認をいただきました(表6)。
4)財務状況改善(基本財産運用)
当財団は約8,300 万円の基本財産を所有しています。 この基本財産は当財団発足時の協賛企業26社からの寄付によるものであり、これまで基本財産は大部分を国債で運用し、運用益(利息)を財団の運営や新規事業に充てていました。しかし、長期に亘る我が国のゼロ金利政策により、国債の運用益がほとんど見込まれなくなり、 財団が継続的に新規事業などを執行する為に必要な財務基盤も盤石とはいえない状態になりました。この状況下で、評議員会・理事会のご承諾を得て常務理事会メンバーを中心とした「基本財産等管理委員会」により継続的に㈱税制経営研究所(税研:荘先生)などのご意見も聞きながら検討を行いました。2020 年にSMBC 日興証券公益法人営業部とコンタクトし、2 月17日に当財団の基本財産運用について提案を受けました。同年12月22日に再度説明と提案を受け、その結果基本財産の一部(約6,000 万)を米ドル建て債券「三井住友FG」にて運用することを同委員会で決定し、これを理事会に提案しご審議いただくことにいたしました。臨時理事会(2021 年1 月)においてSMBC 日興証券担当者から再度説明をうけ、理事会での審議を経て、購入が承認され2 月に購入した次第です。本件については2021年6月の評議員会でも報告させていただきました。本債権の利息は年約2.1%であり、年間約120 万円の運用益が見込まれ、最近の円安により2023 年度決算では約160 万円強となる見込みになっています。
5)内閣府立ち入り検査対応
当財団は公益財団法人として内閣府より定期的に検査を受けております。すでに2016 年10 月6 日および、 2021 年4 月13 日の2 回、内閣府より2 名の担当者がお越しになり、立ち入り検査を受けました。立ち入り検査に当たっては総務主幹4 名(石橋、梅崎、寺原(2016 年)、 指原(2021 年)(荘、清水(税研)、廣田、竹松(アイペック))にも立ち会っていただき、1。事業報告に基づく財団概要の説明、2。前回立ち入り検査時指摘事項に対する対応説明(2021 年のみ)、3。ガバナンスと、経理に分かれて関係書類の検査、4。質疑応答などが終日かけて行われました。おかげさまで、検査終了後内閣府担当者より「改善事項は特に無し」、いくつかの「要望事項」が口頭で指摘されましたが、全体として立ち入り検査は大きな問題なく終了いたしました。立ち入り検査に向けて万全な準備と対応をいただいた皆さんに感謝申し上げます。
なお内閣府からは継続的に財団の役員(理事、監事、 評議員)の役割分担について指導を受けています。具体的には「理事は財団の運営・実務に携わる」「評議員は財団の運営を監視・監督・指導する立場であり実務には携わらない」「監事は財団の運営を監視・監督する」との役割分担です。この指導を受けて財団として理事、評議員、監事の体制の変更(実務に携わる評議員を理事に転籍するなど)にも取り組みました。
6)新型コロナウイルス対応
2019 年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2020 年に入ってから世界中で感染が拡大し、2022 年8 月までに感染者数は累計6 億人を超え、 世界的流行(パンデミック)をもたらしました。日本での累積感染者数は2023 年4 月時点で3,360 万人、死亡者数は7 万4 千人となりました。本感染症はヒトからヒトへ咳や飛沫を介し伝播し、特に、密閉・密集・密接(三密)の空間での感染拡大が頻繁に確認されています。 この感染症により社会生活は移動や集会の制限など大きな影響を受け、当財団においても大きな影響をもたらしました。2020 年度に札幌で計画した第24 回学術集会(綾部時芳会長)は史上初めての「誌上開催」を余儀なくされ、さらに2021 年度の第25 回学術集会(阿部文明会長) はWeb 開催となりました。本感染症2023 年までに第9 波が観測されましたが、幸い感染者数の大幅な減少と重症化率の低下に伴い2023 年5 月に季節性インフルエンザと同じ5 類に移行する措置となりました。感染の減少に伴い2022 年度、第26 回学術集会(岡田信彦大会長) からは「タワーホール船堀」において対面開催を再開することができ盛況を博しており、2023 年度第27 回学術集会(長谷耕二大会長)も対面方式で開催し、本年の第28 回学術集会(藤田史朗大会長)も同じく通常開催いたします。しかしながら、このような感染症は今後とも起きることが予測され、腸内細菌学を訴求する当財団としては、腸内細菌―宿主相互依存・補完の基礎的解明を基盤とした、感染防止・拡大抑制などの制御に繋がる学術的な検討も継続的に必要かと考えます。
7)当財団の将来に向けて
① 国際化対応
当財団が将来に向けてさらなる飛躍と発展を遂げるためには国際化を進める必要があります。国際化への取り組みとして2018 年第22 回学術集会において「国際シンポジウム」を開催し、英語での発表、質疑などを行いました。また2019 年11 月神戸にて開催されたICoFF 国際シンポジウムにおける食品関係3 団体との共催シンポジウムの開催、さらには2020、2021 年のProbiotics, Prebiotics and New Foods– nutraceuticals and botanicals for nutrition & human and microbiota health(ローマ)への後援などを行ってきました。しかしながら、いずれも断片的な取り組みであり、当財団が海外に向けて積極的な情報発信をできるまでには至っておりません。今後海外関連学会との共催学術集会や学術集会の英語化などのさらに進んだ取り組みが期待されます。
② 企業連携強化に向けて
当財団は、設立時の背景からも伝統的に「産、官、学」の協働が非常にうまく機能している団体といえます。運営に携わる人材として、特に特別会員からの役員や各委員の派遣、総務局へのサポートなど、関係企業からの理解と支援が大きな役割を果し、学術コミュニティーへの寄与も含めてバランスよく運営されています。さらに当財団の会費収入に占める企業会員からの会費の割合が非常に高く(約30%)かつ持続的収入として当財団の運営に欠かせません。このような歴史的経緯と現状からも財団として、当財団を通した学術研究の成果を企業会員にフィードバックし、製品化を通して社会貢献する為の共創研究開発基盤の形成と強化がさらに必要と考えます。
近年食品会社における動物実験実施が難しい社会環境のなかで、基盤研究から生まれた製品候補についての生体内での効果やメカニズムを実験動物で検討・検証できなくなっており、実験動物飼育設備・研究施設を廃止した食品会社もあると聞きます。食品であれ、医薬品であれ、新規素材の開発を進めるうえで動物愛護の視点を考慮しながら、必要な動物実験を実施することは、学術的な基礎研究から安全・安心な製品開発という視点からも必要ではないかと考えます。このような社会状況において、財団として学術会員・企業会員が多様な視点からオープンな議論・検討を通して、学術的見解を発信し、 かつ必要に応じて適切な動物実験ができる環境や体制を社会と共に考えていくことは重要と思います。
③ 次世代人材育成と研究者キャリア支援
次に財団として取り組むべき大きな課題は次世代を担う人材の育成であろうと考えます。最近の学術集会における発表はレベルが高い内容が多く、同学問領域の継続的発展という点からも大変喜ばしいことであります。一方で、同学問領域に魅力を感じ、参画しようと考えている学生・院生や若い研究者にとってはハードルが高いと思われている傾向あるようです。企画総務国際委員会でも検討されていますが、「若手研究者育成セミナーの実施」、「若手大学院生に特化した発表の場の提供」、「高校生による発表の場の提供」、「夏期合宿形式講習会開催」など、できるところから少しずつ取り組んでゆければ、 若手の育成に繋がると考えます。
社会における「ダイバーシティ」や「ジェンダーバランス」の重要性は明白であり、当財団としても、各種委員会、常務理事会、理事会、評議員会などにおけるメンバー構成について配慮しておりますが、当財団と腸内細菌学の継続的発展に向けてもこれらの点については、常に考慮していかなければいけません。さらに、会員の皆さんの腸内細菌学とその関連領域を専門とする研究者としてのキャリアとそれに深く関わる「ワークバランス」・「ライフバランス」を図りながら持続性のある学術的訴求・研究開発を進めていく環境や体制について財団として会員全体で考えていくことも重要と思います。 「産官学」連携が上手く働いている学術団体として、大学・研究機関・企業など多様性のある研究開発環境にある会員がフラットに意見交換し、次世代研究者育成も含めてご検討いただければと思います。
④ 学術貢献
本財団の創始者のお一人である光岡知足先生が「腸内菌叢研究は、19 世紀末期に始まり、20 世紀前半では研究はゆっくりした歩調で進められた。20 世紀後半、腸内菌叢研究は飛躍的に進展し、1)腸内菌叢の培養法の開発、2)腸内嫌気性菌の分類・同定の確立、3)腸内菌叢の生態学 的法則の発見、4)ヒトの健康における腸内菌叢の役割、などが明らかにされ、1980 年には腸内細菌学(intestinal bacteriology)という境界領域の学問分野が樹立された。この研究が基礎となって、機能性食品(プロバイオティクス、プレバイオティクス、バイオジェニックス)が開発された」と腸内細菌学雑誌(25: 113–124, 2011)に記載されています。つまり、1980 年代から腸内細菌による免疫刺激、腸内菌叢研究に分子生物学・遺伝学手法の適用、腸内菌叢の宿主に及ぼす影響とその作用機構などの研究が本格的に開始されました。
1990 年代からは、腸内菌叢の解析における分子生物学・遺伝学的手法やシークエンス技術の進化と導入により、培養不能な菌叢までもが分かる時代に突入し、マイクロバイオームからメタボローム解析など含めたオミックス解析などにより腸内細菌叢の神秘の実態解明が飛躍的に進みました。宿主のなかのもう一つの生命体としての生物学的理解、そして各種疾患発症と制御などについても理解が深まり、機能性食品だけではなく創薬ターゲットにまでなる時代になり、益々腸内細菌学がその本流として同研究領域を牽引していかなければいけません。
さらに、AI サイエンス・データサイエンスを駆使することで、各個体レベルでの統合的腸内細菌叢の変化も含めた理解や腸内細菌・宿主メタボライト制御などの理解にも繋がり、個別対応型プレ・プロバイオティクスや予防・治療薬開発への道も開けてくることが容易に考えられます。当財団においてもAI・データサイエンス導入により、腸内細菌学における研究開発での先導的役割を果たさなければいけない時代になっています。さらに、細菌学の根幹である培養技術についても、AI・データサイエンスを駆使した培養不可と考えられていた腸内細菌を培養できる技術革新にも結び付けていくことも重要です。AI・データサイエンスの導入によるAI 腸内細菌学から全ての腸内細菌培養も可能にする培養(Cultured)腸内細菌学の融合によるAI-CUL 腸内細菌学(エーアイカル腸内細菌学)創出など、当財団と会員の皆様の創造性に期待しています。
「歴史に学び、世界に羽ばたく腸内細菌学会」に標榜されているように、本財団は歴史に学び、一方で歴史に縛られることなく、新理事長・副理事長の大野博司先生・長谷耕二先生の新執行部体制の下で、未来を見据えて会員の皆さんと一緒に、世界の腸内細菌学会を先導していただく財団として常に進化していくことを祈念しております。
今日まで、 一緒に歩んでいただいた常務理事会(表1)、理事会、評議員会、各種委員会(表2)の皆さんのご尽力とご協力に感謝申し上げます。最後に当財団の日々の運営を支えていただいた当財団総務主幹、税研(荘一隆)そしてアイペック(廣田隆、竹松志保)の皆さんにも感謝申し上げます。本原稿の準備にあたり、ご協力いただいた石橋憲雄前総務主幹に心から御礼申し上げます。
表2 清野理事長執行体制の委員会メンバー(2015 年以降)
学術委員会表3 清野理事長執行体制における事業と検討事項
主要事業表4 学術集会の開催経過
学術集会 | 日時 | 場所 | 会長 | テーマ |
第20 回 | 2016/6/9, 10 | 東京大学伊藤国際学術研究センター | 平田晴久 | 腸内細菌と健康保持 ─先人の知恵と最新の研究に学ぶ─ |
第21 回 | 2017/6/15, 16 | 神戸市産業振興センター | 山村秀樹 | 腸内細菌の機能研究とオミックス研究の融合 ─ Host-microbiota relationship の解明─ |
第22 回 | 2018/5/31-6/1 | タワーホール船堀 | 大野博司 | 宿主─腸内細菌相互作用 ─双方向制御の分子メカニズムに迫る─ |
第23 回 | 2019/6/18, 19 | タワーホール船堀 | 芹澤 篤 | 腸内細菌と健康 ─消化管を起点とした宿主の恒常性維持― |
第24 回 | 2020/6/11, 12 | 誌上開催 | 綾部時芳 | 腸内細菌と宿主の共生 ─ライフコースの健康と病気を紐解く─ |
第25 回 | 2021/6/1, 2 | Web 開催 | 阿部文明 | 人生100 年時代と腸内フローラ ─ヒトの一生における腸内フローラと健康の関係─ |
第26 回 | 2022/7/7, 8 | タワーホール船堀 | 岡田信彦 | 次世代へ加速する腸内細菌研究 ─マイクロバイオームの生理機能解明とその制御─ |
第27 回 | 2023/6/27, 28 | タワーホール船堀 | 長谷耕二 | マイクロバイオーム研究のフロントライン ─分野の垣根を越えて未踏の大地へ─ |
第28 回 | 2024/6/24, 25 | タワーホール船堀 | 藤田史朗 | 腸内環境研究が拓く健康社会 ─最新研究の動向と社会実装に向けた取り組み─ |
表5 財団任期制、定年制規則(要約)
任期制表6 顕彰制度の充実
会員規定の変更(要点のみ)2021年6月1日
コロナ禍において昨年の学術集会は誌上開催、そして今年はウェッブ開催となり、今後の学術集会開催形式の多様化に繋がります。学術集会長の阿部先生、同財団学術委員会神谷先生をはじめ本学術集会の企画・運営に携わっていただいた先生方・皆様に心から御礼申し上げます。
さて、当財団は2021年3月をもって設立40周年を迎えました。
設立時における財団の理念は「内なる環境の整備」「腸内菌叢を中心とする内なる環境に関する研究」を基本とし、ビフィズス菌に代表される腸内菌叢と宿主とのかかわり合いに関する研究の開発と推進を目指すものでした。
設立からの歩みを記録に基づいて少し振り返ってみますと、当財団の前身である「ビフィズス菌に関する腸内増殖研究会」が、開会式の際に、五十君先生から哀悼の意が表された光岡先生他本間先生、田村先生、中谷先生の諸先輩先生方の主宰及び協賛企業数社の協力により発足したのは50年前の1971年です。数年後にこの研究会を基にした産学協同の学術団体を作ることが提案され、協賛企業26社より基本財産、運転資金を拠出頂き、1981年4月に「財団法人日本ビフィズス菌センター」が設立されました。
財団設立当初から、学術集会での主要な研究テーマは、乳幼児期から老年期に至るまでの健康期、病態期の腸内菌叢が議論され、ビフィズス菌の消長に及ぼす影響が論じられ、「腸内菌叢と宿主」を世界に先駆けて提唱したことからプロバイオティクス、プレバイオティクス、などの開発が推進されてきました。
近年に至り当財団が訴求している「宿主と消化管微生物の関係に関わる研究開発」において、次世代シークエンサーを活用したメタゲノム解析などによる包括的解析がスピーディに行われるようになり全体像が明らかになってきました。さらに、腸管免疫学に関する知見の進展も目覚ましいもがあり、消化管の免疫系と微生物を超生命体として捉え、その制御が免疫学的・生理学的恒常性維持、そして、その破綻が疾患発症に関わっている事などが明らかになってきました。
この様な学問的変遷と発展をふまえて、当財団にとって近年大きな変革となったのは財団名の変更です。近年の腸内微生物の研究に関する飛躍的な発展により、多種多様な腸内微生物と生体との関係、さらに宿主の健康に資する基礎・応用研究活動を行う学術団体を志向することを明確にする必要があり、2019年6月、財団名を「公益財団法人日本ビフィズス菌センター」から「公益財団法人腸内細菌学会」へと変更致しました。
この名称変更は、当財団が諸先輩先生方により開拓され築かれたビフィズス菌に代表される多種多様な腸内細菌と宿主間における共存共栄の生物学的、生命科学的、医学的意義の理解を通して、人類の健康に寄与する学術基盤訴求に向けた最先端の技術・理論の導入、そして異分野融合を通した未来型腸内細菌学創出を目指すものです。
今後とも当財団の継続的発展に向けて、関係者及び会員の皆様のご理解とご協力を心よりお願い申し上げます。
2020年6月1日
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)拡大防止のため、2020年4月16日に緊急事態宣言が全国に拡大され、それに伴って外出自粛、テレワーク導入、事業者への休業が要請されました。その成果によって新規の感染者数が減少傾向を示し、5月14日には東京、大阪圏、北海道を除く39県で、さらに5月25日には全国で緊急事態宣言が解除され、この経験を踏まえた「未来型会」作りに向けて、「新しい生活様式」への第一歩が始まりました。しかしながら、首都圏、福岡、北海道などにおいては依然として感染者の発生が見られており、今後、具体的な数値の推移を注意深く見守っていかなければいけません。世界的規模のパンデミックですが、感染の経路・拡大などが、各国・各地域の医療事情にはじまり、人間の行動様式、社会的価値観、社会的環境が大きく関わっている事も明らかになってきました。社会としての連帯が生み出す力は、パンデミック制御に重要な事も示されています。我が国においても、今後、第2波の感染拡大も考慮し、各都道府県レベルで地域の特性・特徴を踏まえた「新しい生活様式」作りを進めていく事が大切と思われます。
世界的な規模で見るとCOVID-19終息にはまだかなりの時間が必要と考えられます。一方で、今回サイエンスの凄さを目の当りにしました。昨年の11月に同ウイルスの存在が報告されてからこの半年の間に、ウイルス遺伝子情報からその遺伝子変異、そして感染・伝搬機構などが明らかになり、現在も大変な勢いで先導的研究が世界中で展開され、治療薬・ワクチン開発研究に向けて貴重な情報が発信されています。これらの研究成果の一部は「新しい生活様式」にはじまる「未来型社会」構築への理論的裏付けにもなっています。サイエンスによるSARS-CoV-2とCOVID-19の研究成果と理解は、必ず明るい方向性を見出してくれると信じています。
感染終息のためには、有効な治療薬が供給されると同時に、ワクチンが開発されることが必要であり、そこに向けてサイエンスは必ず我々を導いてくれます。我々はその時まで、SARS-CoV-2の存在を常に意識し、社会の一員として感染防御を念頭に行動する「新しい生活様式」に努めると同時に、パンデミックでの経験をベースに、未来に向けた社会変革を見出していく事が重要です。「元に戻る」のではなく、「個人の価値観」を尊重し、「多様性」を認め合う事で、新しい働き方、新しい開発研究の仕方、新しい人材育成システム、新しい経済活動などを創造・創出して、「連帯と協調」の上に「未来型社会」を構築していく機会と捉えて前に進みましょう。
わが腸内細菌学会も、財団としての最大で最も重要な事業である学術集会を、本年度は「誌上開催」という新しい形式で開催する事になりました。本年度の第24回腸内細菌学会学術集会(札幌大会)は、北海道での初開催という事で、大会長の綾部先生、学術委員長の神谷先生、また学術委員各位の多大なるご尽力により企画準備が進められてまいりましたが、COVID-19の状況を踏まえて「誌上開催」として腸内細菌学会誌に発表内容を公表できることになりました。この場をお借りいたしまして、綾部先生はじめ準備を進めて頂いた皆様の多大なるご尽力と会員の皆様の深いご理解に心より感謝申し上げます。また、本大会へご協賛をいただきました企業会員様、旭川医大同門会様他、多くの関係者各位にも心より御礼申し上げる次第です。
今回のコロナ禍において、本学会の会員や関係者各位におかれましては、最前線で検査や治療などの医療業務に携わられたり、日々の開発研究へ「ポスト新型コロナ時代の未来型社会」を求めてリモート・テレワーク導入やオンライン講義など新しい試みを努力されていることと存じます。学会としてそのご尽力に最大限の敬意を表するとともに、ポスト新型コロナ時代における新しい研究プロジェクトや研究体制の構築に必ずや生かされるものと考えています。当財団におきましても、今後はLIVE・WEB配信などを活用した新しい学術集会やセミナーを展開し、また各種委員会・会議などもオンラインで開催するなど、新しい運営システムの導入を進めることになると考えております。
この度のSARS-CoV-2パンデミックと過去のパンデミック、そして新興・再興感染症を考えると、その原因となる各病原体を完全に駆逐する事を目指す研究の推進も重要ですが、一方で、今後人類はこのウイルスをはじめとして病原体と共存する研究も必要になると思われます。ウイルスの撃退・排除機構の解明と理解だけではなく、私ども人類との共存関係とその環境の構築についてのサイエンスの発展も重要と考えます。本腸内細菌学会のめざす「微生物との共生」の理解に向けた研究は、病原体との共存関係構築の理解にも繋がるものであり、これを機会に微生物との共生、そして病原体との共存を可能にする薬品や食品などの開発を促進するための基礎研究の拡大・加速に向けて、会員および関係者各位の学術的・社会的活動と貢献がますます期待されています。
今後、引き続き「ポスト新型コロナウイルス感染症(COVID-19)未来型社会構築」に向けて困難な状況が続くと考えられますが、皆様におかれましては健康にご留意され、この難局を克服するために連帯し、さらなる前進を目指して一丸となって邁進していきましょう。
2020年4月17日
今日世界中において毎日のように感染者とそれに合わせて死者も増加をもたらしている「COVID-19」は、まさに第二次世界大戦後最大ともいえる脅威となって私たちの生活を脅かしています。本年3月11日のWHOによるパンデミック宣言以後感染は拡大し、4月16日現在我が国における感染者数は8,582人、死亡者数は136人に達し、さらに全世界では痛ましく198万人以上が感染し、約13万人が亡くなっています。我が国においては4月7日に「新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言」が発令され、世界各国においても厳しい対策が取られていますが、その勢いはなお衰えず先行きの見えない不安な状況が続いています。当財団も2020年6月に予定していた第24回腸内細菌学会学術集会を中止し誌上開催とすることを余儀なくされる事態となりました。
この危機的な状況において、感染を受けてお亡くなりになられた方々とご家族の皆様への深い哀悼の意を表しますとともに、現在闘病を続けておられる方々へのお見舞いを述べさせて頂きます。さらに感染リスクが高い最前線で診断、治療、予防などに従事し日夜奮闘を続けておられる医療関係者、それを支えている周囲の方々とそのご家族他、多くの皆様に心よりの感謝を申し上げる次第です。
(公財)腸内細菌学会では、財団の基本理念として「腸内菌叢と宿主とのかかわり合いに関する先駆的、独創的研究の開発と推進」を掲げ、その成果を健康社会構築に反映するべく活動しております。基礎科学としての腸内微生物の重要性を認識し、宿主との相互作用およびその制御について生理学的、免疫学的、病理学的、栄養学的、神経学的視点などからの多面的なアプローチを試み、最終目的は、様々な微生物と宿主の間における「共生・排除」の関係を理解し、宿主ヒトの健康維持・増進をめざしています。
近年の研究により、生体の呼吸器・消化器などを覆っている粘膜組織の免疫システムと微生物叢との間で繰り広げられている「共生と排除」関係を誘導・制御する生物学的営みが、感染症・アレルギー・自己免疫疾患・生活習慣病・癌などの発症と関わっている事が分かってきました。さらに、微生物やその代謝産物によって免疫作用が制御され、ウイルスや細菌からの感染、アレルギーや癌などの発症を予防できる可能性が示されています。今回の新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」の出現の例を念頭に置くと、粘膜組織における免疫システム、常在している共生微生物叢そしてそれに対して侵入を試みる「SARS-CoV-2」という三者間での生物学的攻防を理解する必要があります。その観点からも、当財団の基本理念のもとに集まっている我々研究者の研究成果がその理解に結び付くよう、皆で協力して邁進していきましょう。
当財団の学術活動に寄与して頂いている生命科学、医学、歯学、薬学、農学、理学など多様な専門性を有する産官学からなる研究者の方々が推進している粘膜組織の免疫システムをターゲットとする経鼻・経口ワクチンに代表される「粘膜ワクチン」、生体恒常性や腸内共生系の健康的維持・向上や免疫の増強などに寄与する「腸内細菌・代謝産物カクテル」や「プロバイオティクス」等の研究開発は急務であり、継続性を持って進めていかなければなりません。当財団の訴求する理念に基づくこれらの研究開発が直接的あるいは間接的に治療薬やワクチンの開発につながる事は言うまでもありません。その信念の下に日々研究に邁進されている皆さんの安全と安心を最優先に我々の研究活動を通してこの難局克服に向けて、一丸となって前に進んでいきましょう。
当財団は今般の「COVID-19」の事例を胸に刻み、関連・異種分野との融合と研究促進を図り、その研究成果を世界に向けて発信し、国内にとどまらず世界の病気の予防・健康増進に貢献し、我々の国際的存在価値を高め、グローバルな健康社会の構築の牽引力となるよう努力を続けてゆきます。そして私ども研究者はその使命の下に、どんな状況下でも黙々と研究を推進して、将来起こりうるこの様な不測の状況打破に向けて貢献することを誓うものであります。研究に従事する皆さんの安全・安心に配慮するとともに、この困難を打破するように我々の研究活動を通して我が国はもとより世界に貢献すべく頑張りましょう。
2019年7月
当財団では一昨年より「企画総務国際委員会」におきまして、当財団の将来と方向性について検討を行って参りました。昨年1月には全会員に対するアンケートを実施し、結果を会員に対してフィードバック致しました。アンケートに基づき昨年6月に理事、監事、評議員各位の意見を承り、継続的に委員会での検討を続けてまいりました。その結果、当財団の将来と方向性について、定款の変更、財団名称の変更を含めた以下の改革案を取りまとめ、常務理事会で審議し、3月5日の理事会、6月24日の評議員会に提案させて頂きご承認いただきました。
1981年に設立後38年が経過した当財団が今回、会員、関係者の皆様のご協力とご理解のもとこのような変革に至りましたこと、非常に感慨深いものがございます。しかしながら、当財団が求め続けてきた「腸内微生物と宿主の健康にかかわる学術的な訴求」は今後とも変わることはございません。当財団は将来にわたり皆さまと一緒に、ビフィズス菌を含む多種多様な腸内微生物と生体との幅広い関係を学際的に広く深く訴求し、宿主の健康に資する基礎・応用研究活動を行う学術団体を継続的に志向し、そのリーダーシップを担うものと考えます。
当財団が今日まで継続し、発展できたのは一重に個人会員、特別会員、団体会員はじめ多くの関係者の皆様方のご協力と熱いご支援の賜物です。ご承知のように当財団の運営は個人会員はじめ、企業会員各位のご協力とご支援が無ければ成り立ちません。ここに長年のご協力とご支援に対し、厚く感謝し、心よりお礼申し上げるとともに、今後とも引き続き腸内微生物と宿主の生物学・医学的相互関係の理解に向けた学術団体として、「公益財団法人腸内細菌学会」が継続的に発展するように、皆様方のご支援とご協力のほどお願い申し上げる次第です。
当財団の設立母体は1971年から2001年まで計56回にわたり開催された「ビフィズス菌腸内増殖に関する研究会」であります。この研究会は本間道先生(故人)をはじめとし、田村善蔵先生(故人)、中谷林太郎先生(故人)、光岡知足先生と6社の幹事企業により運営されました。この研究会を発展させ、新たな産学協同の学術団体を作ることを目的に1978年設立準備会議が発足し、設立趣意書などの作成、拠出金を募るなど準備が進められました。その結果賛同企業26社から7,000万円(基本財産6,000万円、運用財産1,000万円)が拠出され、当初の資産として整えられ、1981年4月1日文部省から「財団法人日本ビフィズス菌センター」の設立が許可されました。申請時財団名を「ビフィズス菌学会」としたが文部省の指導により「日本ビフィズス菌センター」となりました。
設立時、財団の基本理念は下記5項目に要約され、その当時広い意味で宿主との関係において腸内細菌叢を代表するものはビフィズス菌であったことから「ビフィズス菌」が財団の名称の中に含められました。
2008年の公益法人制度改革関連法の整備により、公益法人への移行が求められ、当初の設立理念を引き継いだ法人として「公益財団法人日本ビフィズス菌センター」を内閣府に申請し、2013年4月1日に認定され設立されました。
当財団は母体である「ビフィズス菌腸内増殖に関する研究会」から「財団法人日本ビフィズス菌センター」「公益財団法人日本ビフィズス菌センター」と一貫して「ビフィズス菌」をその名称に使用してきた。その理由は下記に示されます。
ビフィズス菌の腸内環境における重要性はゆるぎないものですが、近年のライフサイエンス分野における腸内微生物の研究に関する飛躍的な発展を考えると、当財団は将来にわたりビフィズス菌を含む多種多様な腸内微生物と生体との幅広い関係を学際的に広く深く訴求し、宿主の健康に資する基礎・応用研究活動を行う学術団体を継続的に志向し、そのリーダーシップを担うことを明確にすることが必要との考えに至りました。また当財団活動の中心である学術集会(腸内細菌学会)および学術誌(腸内細菌学雑誌)の名称と財団名の統一化を図ることが、今後の国内外における当財団の存在意義と発展、そして発信力の観点からも必要との結論に至りました。その結果2019年6月、当財団は名称を「公益財団法人日本ビフィズス菌センター」から「公益財団法人腸内細菌学会」へと変更することと致しました。
今回の名称変更は、当財団が「日本ビフィズス菌センター」として求め続けてきた理念と方向性「ビフィズス菌に代表される腸内微生物と宿主とのかかわり合いに関する先駆的、独創的研究の開発と推進」を将来にわたって継続し、そのリーダーシップを担いさらに発展させるとの考えに基づくものであります。
ここにあたり、財団の発足にご尽力された諸先生、またその後現在までの活動を支えて頂いている諸先生、さらに長期にわたり多大な支援を頂いている個人会員、特別会員、団体会員他諸氏に深く感謝し、敬意を表する次第です。
「当財団の理念、沿革、将来と方向性及び新名称について」の検討経過
このたび、日本乳酸菌学会、日本食品免疫学会、日本ビフィズス菌財団の三団体共同編集による、英文の学術誌BMFH(Bioscience of Microbiota, Food and Health)出版委員会の主催によります初のシンポジウム開催することとなりました。三団体を代表して、一言ご挨拶を申し上げます。
ご存知のようにBioscience of Microbiota, Food and Health(BMFH)は、日本乳酸菌学会、日本食品免疫学会、公益財団法人日本ビフィズス菌センターの三団体共同編集による、英文の学術誌であります。それまで各学会が独自に行っていた英論文の刊行を、一つにまとめて効率化することを目的に2012年で1月に創刊されました。2014年6月より PMC(PubMedCentral)に公開されており、Impact Factorの取得に向けての準備が進められております。詳細については、神谷編集委員長からご紹介があると思います。
BMFHに関わる学術団体、日本乳酸菌学会、日本食品免疫学会、腸内細菌学会の研究は世界の学術と産業に貢献していると認識しております。本三学会は腸管生態系を構成し、その制御に関わる微生物群、免疫細胞群、食物・栄養源を通した健康維持や病気のコントロールを目指して、微生物学的、生理学的、免疫学的、病理学的、神経学的栄養学的など多様な視点から、研究が進展しております。その成果は人類の健康の維持・向上に大いに貢献することが期待されます。三学会が目指す共通のゴールに向けて、三学会間はもとより関連・異分野学術領域との融合研究の促進がさらに必要となって参ります。 私達3学会は国内学会ではありますが、よりグローバルな視点から学術活動を展開し、研究成果を世界に向けて発信し、世界において当該研究の発展に貢献していくことが必要と考えております。その意味で当該分野を包括するBMFH(Bioscience of Microbiota, Food and Health)の存在意義は非常に大きいと考えております。
本シンポジウムを開催するに至りました経過は、BMFH編集と刊行の事務局を担当していただいている株式会社IPEC様より、BMFHをさらに発展させるために活用してほしいとの名目で、多額の協賛寄付金を拠出頂いたことがきっかけでございます。その寄付金をもとに本シンポジウムを企画、開催することができました株式会社IPEC様特に廣田社長にはこの場を借りまして厚くお礼申し上げます。さらに、グローバル化と言う視点から、海外特別講演をご支援いただいております日米医学協力事業日米免疫にも御礼申し上げます。最後に本シンポジウムの企画に大きなご尽力を頂きました各学会代表のBMFH出版委員会の先生方、特に委員長の神谷先生に感謝申しあげると同時に、今回ご発表頂きます先生方そして本日お集まりいただいた参加者の皆様に対しても心よりお礼を申し上げる次第です。皆さんと共にBMFHを大いに盛り上げ、発展させ、当該分野の研究成果を世界に向けて発信してゆこうではありませんか。
2015年6月から歴史ある公益財団法人日本ビフィズス菌センターの理事長を拝命いたしました。皆様御存知のように、同センターは先見性のある先人の先生方のご尽力により「ビフィズス菌を中心とした腸内細菌叢(腸内フローラ)と宿主とのかかわりあいに関する研究開発の推進」を目的として、1981年4月に創設されました。実際には、我々が尊敬する先人達がその10年前から「ビフィズス菌腸内増殖に関する研究会」として、学術活動を積み上げてこられ、それを基盤としてセンターが設立されました。その歴史的経緯については、当財団ホームページ「財団の歩み」をご覧いただければと思います。そして、前理事長の上野川修一先生のリーダーシップとご尽力そして財団関係皆様のご協力により、内閣府からの認定を受け2013年4月1日より現在の公益財団法人としての活動が始まりました。その活動目的は、先人達が研究会の時代に掲げた姿勢とDNAを継承しながら、時代における学問の進歩と潮流を反映させ「ビフィズス菌を中心とした腸内細菌叢と宿主とのかかわり合いに関する学術情報の収集、提供を行うことにより斯学の進歩、普及を図り、もって我が国における学術の発展に寄与する」ことにあります。そして、具体的な事業として、
以上4項を主要事業として進めることが定款に明記されています。
上野川前理事長の下で皆さんにご協力いただいたことにより認定されました公益財団法人として、日本の学術のみならず世界の学術に貢献し、その成果が近い将来世界中の健康社会構築に結び付くように、皆さんとご一緒に当財団の運営を進めてまいります。当財団、そして財団が主宰する腸内細菌学会の皆様にはこれまで以上のご支援とご協力をお願い申し上げます。
さて、その腸内細菌学会は、通常国内学会の場合には頭に「日本」がつきますが、それがついていません。また英語名もそれを反映して”Annual Meeting of Intestinal Microbiology”という表記で開催されています。これが意味することは、国内はもとより常にグローバルな視点から、我々の学術活動を推進していくことだと考えております。さらに、その研究の方向性は、細菌学としての腸内細菌の重要性はもとより、宿主との相互作用・制御について生理学的、免疫学的、病理学的、栄養学的、神経学的視点なども含めて多面的な検討が必要です。当財団は関連・異種分野との融合研究促進を図り、世界に発信し、国内にとどまらず世界の腸内細菌学研究に貢献し、我々の国際的存在価値を高め、世界の健康社会構築の牽引力となるよう努力をしていきたいと思います。上野川前理事長の掲げられた財団の運営方針を継承しながら、国際化に向けたチャレンジを進めていきたいと考えております。そこで、私自身の専門が宿主側の粘膜免疫学であることを踏まえて、当財団の基盤である細菌学と言う視点から、そして国内とグローバルな展開を同時に円滑且つ建設的に進める為に、副理事長に杏林大学医学部感染症学講座の神谷茂教授にご就任いただきました。さらに、常務理事の五十君靜信先生、大草敏史先生とご一緒に日々の運営を、理事会・評議委員会メンバーの先生方のご指導を賜りながら進めてまいります。財団と腸内細菌学会の皆様には、我々が共有するミッション達成に向けて、是非忌憚のない声をお聞かせいただき、その運営に反映させていきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。JBF Climb to the World !!