公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

学術誌


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Bioscience and Microflora 和文要約 Vol.23, No.1

腸内細菌の導入による腸内粘膜免疫応答とマウス・クローン病モデルの確立

松本 敏

ヤクルト本社中央研究所

腸内細菌は、腸上皮細胞におけるクラスIIMHC分子発現、IgA産生B細胞および腸上皮間や粘膜固有層に存在するab型Tリンパ球の増殖・分化に重要な働きをしている。正常マウスにおいて腸内細菌に体する粘膜免疫応答は、通常マウスレベルに到達することで平衡化する。一方、我々が開発したクローン病モデルSAMP1/Yitは、腸内細菌の導入により全層性の回腸炎と盲腸炎を発症するが、無菌状態ではこのような病変は観察されない。これらの結果は、常在性腸内細菌がSAMP1/Yit系統の腸炎発症に重要な役割を果たしていることを示唆している。総説では、生理的状態および病態時の粘膜免疫応答に関わる腸内細菌と粘膜免疫システム間の相互作用について焦点をあて解説する。

ヒトボランティアにおけるBifidobacterium longum とイヌリンの投与による消化管内性状への効果

Frank A. Bruno,Nagendra P. Shah

School of Molecular Sciences, Victoria University, Australia

プロバイオティクスやプレバイオティクス(非消化性オリゴ糖)の摂取による胃腸への保健効果に対する関心が高まってきている。プロバイオティクスとオリゴ糖を組み合わせて摂取することにより、その整腸作用や健康増進効果をより高めることができると考えられる。本研究の目的はBifidobacterium longum 1941株またはB.longum BB536株とイヌリンを健康成人のボランティアに2週間以上投与した際の各種消化管内性状(糞便内細菌数、排便頻度とその規則性、有機酸、-グルクロニダーゼおよび-グルコシダーゼ活性、pHならびに水分含量)の変化に対する効果を検証することである。無作為化した二重盲検プラセボ対照実験を行った。被験者は10名ずつ無作為に、1×1010 cfu/g以上のB.longum 1941株凍結乾燥菌体25 mg と475 mgのイヌリンを含む製剤、1×1010 cfu/g以上のB.longum BB536株凍結乾燥菌体25 mg と475 mgのイヌリンを含む製剤、あるいは475 mgのイヌリンのみを含むプラセボのいずれかを摂取した。評価は各消化管内性状の試験開始前と後の比較によって行われた。いずれの郡においても糞便内細菌数、排便頻度、排便の規則性、pH、酵素活性、有機酸濃度ならびに水分含量において試験の前後に有意差は認められなかった。しかし、酪酸の濃度は生菌を含む製剤の摂取により増加した。これらの結果は、B.longum 1941株やB.longum BB536株の投与は健康成人においては消化管内環境や排便頻度、糞便性状に大きな影響を与えないことを示している。効果が確認されなかったのは試験期間が短かったことや健康成人を被験者に用いたことが原因かもしれない。

魚腸管からの養殖淡水魚のためのプロバイオティクスとしてのLactobacilliの選抜

Adolfo Bucio1),Ralf Hartemink1),Johan W. Schrama2),Frank M. Rombouts1)

1)Laboratory of Food Microbiology,2)Fish Culture and Fisheries Group, Wageningen University, The Netherlands

本研究の目的は、養殖淡水魚のためのプロバイオティクスとしての適性を持ったLactobacillusを選抜することである。55株の淡水魚の腸管から分離されたLactobacillusについてサカナやヒトの病原菌を抑制する能力をin vitroで調べ、選ばれた菌株についてさらに生理活性を持つアミン類の産生能や胃・腸管内溶液(GIF)に対する抵抗性を腸管モデル装置を用いて検討した。1株についてはサカナ飼料抽出物中で病原菌とともに培養して検討した。選ばれた菌株は、酸の産生により抑制効果を表すLactobacillus plantarum 44a およびH2O2の高産生株であるL.brevis 18fと同定された。H2O2の高産生性はpH6に調整された培養上清がAeromonas hydrophilaに対して強い阻害効果を持ち、その効果が上清をカタラ-ゼ処理することによって見られなくなることから明らかとなった。これらの菌株をGIFに曝露したところ、L.plantarum 44aは他の菌株に比べてpH2、2.5、3およびペプシンに対して生存性が高かった。L.brevis 18fはGIF中での生存性が非常に低かった。L.plantarum 44aをA.hydrophilaとともに初期菌数の比を103:107または107:103としてサカナ飼料抽出物中で培養すると、pHが5.5付近からA.hydrophilaを殺菌するようになった。L.plantarum 44aは淡水魚のためのプロバイオティクスとしての応用の可能性が示された。一方、H2O2の高産生株であるL.brevis18fは酸素の存在する上部消化管や皮膚、えら、卵で病原菌を抑制できる可能性が考えられる。

腸内細菌叢および飼料中フィチン酸が無菌および通常ラットの小腸粘膜フィターゼ活性に及ぼす影響

篠田粧子、吉田 勉

東京都立短期大学健康栄養学科

無菌および通常ラットにコントロール飼料または2%フィチン酸添加飼料を投与し、腸内細菌叢およびフィチン酸投与が小腸粘膜フィターゼ活性へ及ぼす影響を検討した。雄ラット(4週齢)に実験飼料を3週間投与し、7週齢で小腸を摘出して3等分した。3等分した小腸のうち、十二指腸を含む小腸上部の粘膜をかき取り、調整したホモジネートのフィターゼ活性を測定した。小腸粘膜のフィタ-ゼ活性には、腸内細菌叢の有無による影響は認められなかった。一方、フィチン酸の投与は小腸粘膜ホモジネートにおけるフィターゼ活性を有意に低下させたが、精製過程におけるフィターゼ活性ではこの影響は認められなかった。コントロール飼料を投与した無菌ラットの小腸粘膜を精製し、電気泳動によってフィターゼ活性を有する2つのピークを確認した。各ピークでのフィターゼ活性に対する二価陽イオンの要求は異なり、ピークIはMg2+単独添加で、ピークIIはMg2+とZn2+の添加で最も活性が高くなった。また、ピークIIではアルカリフォスファターゼ活性を認めなかった。

臨床材料、糞便および乳製品から分離されたBifidobacteriumの危険因子とその関連性状に関する調査

Arthur C. Ouwehand1),Maija Saxelin2),Seppo Salminen1)

1)Department of Biochemistry and Food Chemistry, University of Turku,2)Valio Ltd., Finland

Bifidobacteriumは一般に安全な菌と考えられている。しかし、これまでにBifidobacteriumの危険因子について調べられたことはない。そこで既知の病原因子について臨床材料、糞便および乳製品から分離されたBifidobacteriumで検討した。臨床材料と糞便から分離された菌株の間には明らかな差は認められず、Bifidobacteriumは安全であるという一般的な考えを支持する結果となった。