哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類、昆虫など広範囲の生物種の腸に強く接着して存在し、分節構造を有した繊維状の形態をもつ腸内細菌を通常segmented filamentous bacteria(SFB)(和名ではセグメント細菌)と呼んでいる。直径0.7~1.8 μm、長さ2~1,000 μm。芽胞形成能をもつ非病原性のグラム陽性の常在性細菌である。近年、マウスとラットの腸管に存在するSFBのゲノム全塩基配列が決定された。いずれも環状で約1.5 Mb、両者の塩基の一致率は86%である。胞子形成、鞭毛形成、嫌気的発酵に関与する遺伝子をもち、アミノ酸生合成にかかわる遺伝子はほとんど欠失している。SFBの生活環、存在形態は特殊で、哺乳類由来のSFBでは芽胞から放出された付着根が腸上皮細胞に接着し、上皮細胞を足場にして分節を形成しながら伸長し、成熟体になると考えられている。
SFBの最大の特徴は腸内定着に伴う強い免疫誘導活性であり、1990年代にはIgA分泌促進、腸上皮細胞間リンパ球(IELs)の発達を誘導することが報告された。さらに、2009年には腸粘膜固有層にヘルパーT細胞の一種であるTh17細胞を誘導することが明らかになった。したがってSFBは病態生理との関係も深く、Citrobacter rodentium等の病原菌に対して感染防御効果を示す一方、実験的自己免疫脳脊髄炎(EAE)や関節炎などの自己免疫疾患を誘導することが知られている。免疫誘導のメカニズムについてはその詳細は不明であるが、SFB定着によって腸上皮細胞で遺伝子発現の亢進が観察される血清アミロイドAをインビトロで樹状細胞の存在下にナイーブなT細胞に加えることによってTh17細胞が誘導される。ヒトにおけるSFBの存在が注目されるが、SFBの全ゲノム配列が決定された現時点においてもヒトのメタゲノムデータ上にSFBと判断できる塩基配列は見つかっておらず、またインビトロ培養もいまだに成功しておらず、今後に残された課題である。
参考文献:Ivanov II, et al., Induction of intestinal Th17 cells by segmented filamentous bacteria. Cell. 139: 485–98, 2009.
(梅崎良則)