乳は哺乳類の赤ちゃんの唯一の栄養源です。最近の研究により、乳中のいくつかの成分は栄養素としての機能だけでなく、多様な生理作用を持つことが明らかになってきました。ここでは、乳タンパク質の1つであるラクトフェリン(LF)について簡単に紹介します。
LFは分子量約80,000の鉄結合性の糖タンパク質で、1分子に2つの鉄を結合します(図)。LFの含量は哺乳類の中でヒトの乳で最も高く、ヒト常乳で1-3 mg/ml、初乳では5-7 mg/mlとなっています。牛乳には殺菌前の生乳にヒト乳の10分の1程度の濃度のLFが含まれていますが、加熱殺菌の工程で鉄結合能などの機能が消失します。LFの生理機能は、抗菌・抗ウイルス作用のほか、ビフィズス菌増殖作用、鉄吸収調節作用、細胞増殖調節作用、免疫調節作用など多彩です。
LFは抗微生物活性を持ち、その活性はグラム陰性細菌、グラム陽性細菌、真菌、ウイルスなど広い範囲にわたっています。一方、ビフィズス菌に対しては抗菌作用を示さず、むしろ増殖効果を示すプレバイオティクスとして作用します。また、LFがペプシン消化を受けると、より強力な抗菌活性を持つペプチド(ラクトフェリシン?)が生成されます。本活性ペプチドはLFに比べ数十倍から数百倍強い抗菌活性を示す一方、ビフィズス菌や乳酸菌に対しては殆ど抗菌活性を示しません(詳細は用語集ラクトフェリシン?を参照)。
母乳栄養児の場合、腸内のビフィズス菌の占有率が99%にもおよび、腸内感染症の罹患率が低いことが知られています。ビフィズス菌増殖作用とともに大腸菌やクロストリジウムなどのいわゆる有害菌の抑制作用を持つLFは母乳栄養児の腸内菌叢の形成に重要な働きをしていると考えられています。
赤丸は鉄イオン、矢印のハイライトは抗菌ペプチド「ラクトフェリシン®」の領域を示す。
(E.N.Baker教授、R.Kidd博士提供)
(山内恒治)