胆汁酸は肝臓でコレステロールより生合成されるステロイド化合物である。動物で見られる主な胆汁酸はA環とB環がシス型に結合した、炭素数24の5β-コラン酸を基本骨格とし、ヒトではその骨格の3,7,12位に水酸基を有したコール酸、ケノデオキシコール酸などが主な胆汁酸となる。一方、マウスのミュリコール酸、ブタのヒオコール酸など、動物種に特徴的な胆汁酸も見られる。更に魚類、両生類、爬虫類などでは胆汁アルコールやC27の高級胆汁酸も存在する。胆汁酸の構造式については、ビフィズス 5:157-172,1992を参考にされたい。
肝臓から胆汁中へ分泌される胆汁酸のほとんどは主にタウリン、グリシンが結合した抱合型であるが、タウリンとグリシンの抱合比は動物種差が大きい。その他、硫酸抱合、グルクロン酸抱合などの多様な抱合形態が存在する。
胆汁酸の主な作用は、リパーゼを活性化させ、食事中の脂質とミセルを形成し、その吸収を促進することであるが、コレステロールから胆汁酸への変換を介して、コレステロール代謝を調節する上でも重要な役割を担っている。
回腸まで到達した胆汁酸はほとんどが再吸収され、腸管循環を繰り返すが、一部の胆汁酸は大腸に到達し、腸内細菌の作用によって変換される。腸内細菌による主な変換は脱抱合反応、脱水酸化反応、脱水素反応、および水素化反応である。このうち脱抱合、脱水酸化反応により、タウリンあるいはグリシン抱合されたコール酸、ケノデオキシコール酸などの一次胆汁酸は、デオキシコール酸やリトコール酸といった毒性のある二次胆汁酸に変換される。脱抱合反応は好気性菌、通性嫌気性菌および偏性嫌気性菌の広範囲の菌により行われるが、それぞれが有する酵素には基質特異性がある。脱水酸化反応は主に7α位で起こるが、この反応を担う酵素を有する菌はこれまでのところ偏性嫌気性菌であるEubacterium属、Clostridium属の中の特定の菌種での報告が圧倒的に多い。 無菌マウスの糞便中には抱合型胆汁酸しかみられないが、このマウスに脱抱合能活性を示す菌と7α-脱水酸化活性を示す菌を組み合わせて投与することで、デオキシコール酸を検出できるようになる。しかしながらこれらの活性の両方を有する菌株を単独で無菌マウスに定着させても、期待されるレベルの二次胆汁酸は検出できず、in vivoにおける胆汁酸の変換には複雑な菌の相互作用が必要であると考えられる。その他腸内細菌は、胆汁酸の吸着作用、遊離型胆汁酸の菌体内への吸収作用などを介して、体外への胆汁酸排泄に寄与しているとの報告もあり、プロバイオティクスとしての応用の可能性も示唆されている。
参考図書:内田清久. 2009. 胆汁酸と胆汁. 創英社/三省堂書店. 東京
(成島聖子)