ディフェンシン(defensin)は、カセリシジン(cathelicidin)とともに代表的な抗菌ペプチドであり、自然免疫ではたらく主要な作用因子の一つである。哺乳類のディフェンシンは3つのファミリー (α-defensin、β-defensin、θ-defensin)からなり、18~45個のアミノ酸からなる塩基性ペプチドであり、分子内に3個のジスルフィド結合を有している。ヒトでは、α-defensinは貪食細胞の細胞内顆粒に4種類 (HNP1~HNP4)あって貪食した細菌等の殺菌作用を果たしており、また、小腸上皮細胞の一系統であるパネト細胞 (Paneth細胞)から2種類 (HD5、HD6)が分泌されて腸管腔に侵入した細菌等の殺菌に貢献している。ヒトやマウスをはじめとする哺乳類の消化管においては、α-defensinはPaneth細胞の細胞内顆粒だけに恒常的に発現しており、Paneth細胞は感染刺激やコリン作動性刺激等にすばやく反応してαディフェンシンに富む顆粒を小腸内腔に分泌する。β-defensinは貪食細胞の他に、呼吸器、口腔、大腸、腎臓、眼、生殖器などの粘膜上皮や皮膚に広く存在し、それらの多くは感染刺激によって産生が誘導される。θ-defensinはサル (old world monkey)の単球だけが持つ動物界で唯一の環状ペプチドであり、ヒトにはない。
Paneth細胞αディフェンシンの活性化は、マウスのcryptdinではPaneth細胞の顆粒内において、前駆体であるpro-cryptdinからMatrilysin (Matrix Metalloproteinase-7)の作用で活性型cryptdinとなる。ヒトのHD5の活性化酵素はトリプシンである。活性型cryptdinを欠損するマウスは、小腸細菌叢の組成がwild typeと有意に異なることや、cryptdinが病原菌には強い殺菌活性を示す一方でLactobacillus, BifidobacteriumやBacteroidesなどの常在菌に対してはほとんど殺菌活性を示さないことから、αディフェンシンは腸内細菌の組成を制御することによって腸内環境の恒常性を保っていることが明らかになった。さらに、モデルマウスでの検討により、αディフェンシンの異常はdysbiosisを引き起こすことで、クローン病、肥満症、移植片対宿主病、原虫感染症をはじめとする疾病に関与する可能性が示されている。
(綾部時芳)