公益財団法人日本ビフィズス菌センター/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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下痢性大腸菌(diarrheic Escherichia coli

大腸菌(Escherichia coli)は腸内細菌科に属するグラム陰性の短桿菌である。ヒトや動物の腸管内常在菌の一つであるが、それらのなかには病原因子を獲得しヒトに下痢を惹起させるものが存在する。これらは下痢原性大腸菌と呼ばれ、以下の6種類に分類することができる。すなわち、腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic E. coli, EHEC)、腸管病原性大腸菌(Enteropathogenic E. coli, EPEC)、腸管侵入性大腸菌(Enteroinvasive E. coli, EIEC)、腸管毒素原性大腸菌(Enterotoxigenic E. coli, ETEC)、腸管凝集接着性大腸菌(Enteroaggregative E. coli, EAEC)、分散接着性大腸菌(Diffusely adherent E. coli, DAEC)である。
このうち、EHECによる感染症はいわゆる感染症法において三類感染症として規定されており全数が報告されている。EHECは志賀毒素(Shiga toxin, Stx)を産生する大腸菌として定義され、その大部分はEPECと同様Locus of Enterocyte Effacement (LEE) と呼ばれる35 kbの遺伝子領域を染色体上に保有し、腸管粘膜上皮細胞にattaching-effacing lesion, A/E病変を惹起する。EHEC感染症では無症状から下痢や出血性大腸炎、重症では溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症までさまざまであるが、小児や高齢者では重症化することがあり注意が必要である。これらの病態にはStxが主要な役割を果たしている。我が国ではO157, O26, O111, O103, O145, O121などが主要なO血清群となっている。
EPECは特定の毒素を産生しないが、集束形成線毛(Bundle-forming pili, BFP)により腸管粘膜上皮細胞に接着して微絨毛を破壊した後、染色体上のLEEにコードされるintiminにより強い接着を起こして台座を形成し上皮にA/E病変を惹起する。開発途上国においては、現在でも乳幼児下痢症の依然として重要な原因菌である。
EIECは赤痢菌と同様に120-140メガダルトンの大型プラスミドにより宿主細胞への侵入能を持つ。本菌は腸管粘膜上皮細胞内へ侵入して増殖・拡散し上皮細胞の壊死、それに伴う潰瘍形成と激しい炎症を起こす。
ETECは、腸管粘膜上皮細胞に付着するための因子(colonization factor antigen, CFA)で上皮細胞に接着・増殖し、易熱性エンテロトキシン(heat-labile enterotoxin, LT)、耐熱性エンテロトキシン(heat-stable enterotoxin, ST)の両方またはいずれか一方を産生し、下痢を起こす。途上国における乳幼児下痢症の最も重要な原因菌であり、先進国においてはこれらの国々への旅行者にみられる旅行者下痢症の主要な原因菌である。
EAECは、培養細胞であるHEp-2細胞にレンガを積み重ねたような凝集塊状に接着し、LTやSTを産生しない一群の大腸菌と定義されるが、その病原性や性状では不均一性がみられる。凝集接着性に関与する線毛としてaggregative adherence fimbriaeが同定されており、多くは、LT, STとは別種の耐熱性のエンテロトキシンを産生する。開発途上国の幼児における持続性下痢症の主要な原因菌であるが、先進国においても集団発生事例が報告されている。
DAECは、培養細胞にEPECやEAECと異なる特徴的な分散性の細胞接着パターンを示す。分散接着性を担う因子として、Afa/Drファミリー接着因子が同定されている。

(寺嶋淳)