specific-pathogen-freeマウスの略でマウス固有の病原体を保有していないマウスのこと。現在のSPFマウスと言われているのは、基本的には帝王切開または子宮切除により無菌的に取り出した胎児をbarrierシステム内(図1)で飼育管理されているもの(barrier-sustained (BS) mice)を言う。ただし、どのような”SP”がfreeの対象となるか?その検査法は適切か?などの問題もあり、SPFマウスの正確な定義はない。
実験動物としてのマウスに対する固有の病原体は5つのカテゴリーに分けられている(http://www.iclasmonic.jp/microbiology/category/category_c.html)。1)人獣共通感染症と言われるもの、2)伝染力が強くマウスを致死させる恐れのあるもの、3)致死させることはないが、発病あるいは不顕性感染を起こす微生物、4)日和見病原体、5)通常、病原性はないが、環境の指標となる微生物。1)と2)はあってはならないものであるが、3)、4)は動物の状況、例えば免疫に異常のあるマウス、乳児、強いストレスをかける実験での使用などで当然排除されるべき対象も異なる。どのように厳重なBSでもヒトやものの出入りがある限りBSのリークは皆無とは言えない。これらの微生物は定期的なモニタリングは必須となる。
SPFマウスについていくつかの問題が未解決である。一つにSPFマウスはBS内で飼育されていないマウス(通常マウス)に比べて腸内フローラは極めてシンプルでしかもBSのレベルやSPFの作出方法の違いから、施設ごとに大きく異なる 。近年の遺伝子改変マウスによる各種病態モデルで病態発現と腸内フローラの関係が明らかにされており、免疫不全マウス以外には感染しないような微生物までfreeを求めるような極端なBS要求は益々腸内フローラの単純化を招き、最終的にはアイソレーター飼育のノトバイオートを使用せざるおえなくなる。これが実験動物として正常なものと言えるのか?“病気のない通常マウス”が本来のSPFマウスと言えよう。二つに対象とする微生物をspeciesレベルではなく、genusレベル、さらにfamily レベルで排除しようとの動きがみられるが、明らかに間違った方向と言える。少なくともspeciesレベルまで絞り込むことが必要である。
図1.バリヤーシステムの模式図
(伊藤喜久治)