摂取した食物が原因となり、免疫学的機序を介して惹き起こされる蕁麻疹や下痢、咳などの症状を食物アレルギーという。全身性の重篤な症状はアナフィラキシーと呼ばれ、血圧低下や意識障害などを伴い、生命にかかわることもある。食物アレルギーの有病率は乳児で高く加齢ともに減少し、原因食品としては鶏卵、牛乳、小麦の他、エビ、カニなどの甲殻類や果物類が多い。
通常、摂取した食品中のタンパク質は胃酸や消化酵素で分解され、分解されなかった場合でも、過剰な免疫反応を抑える経口免疫寛容と呼ばれる免疫機能が働き、食品成分に対して過剰に免疫が反応することはない。食物アレルギーでは、原因食品中の特定のたんぱく質(アレルゲン)が消化されずに腸管粘膜を通って体内に流入し、そのアレルゲンに反応するIgE抗体やT細胞がつくられることで感作される。再びその原因食品を摂取すると、アレルゲンに対する過剰な免疫反応が生じ、食物アレルギーの症状が現れる。従って、消化機能や腸管バリア機能が低下したり、免疫寛容を誘導する免疫機能が未発達だと、食物アレルギーが発症しやすくなり、これらの機能が未熟な乳児では食物アレルギーが多いとされている。また、腸内菌叢は宿主の免疫機能や腸管バリア機能の発達に重要な役割を果たすことから、腸内菌叢は食物アレルギーの発症に大きく影響すると考えられる。
食物アレルギーを含むアレルギーの有病率は先進国を中心にここ数十年の間で年々増加している。アレルギーの発症には遺伝的要因や環境的要因が大きく影響することが知られているが、この数十年の間に遺伝的要因が大きく変わったとは考えづらく、環境的要因の変化がアレルギーの増加をもたらしていると考えられる。近年では、過度の除菌が生み出す生活環境や食習慣が私たちの腸内菌叢バランスを崩すことも、アレルギー増加の一因として指摘されている。特に離乳食が始まる前の乳児期の腸内菌叢は、その後のアレルギー発症に影響を及ぼすことが国内外の疫学調査から示唆されており、食物アレルギーを発症する児では、生後3カ月後の腸内菌叢の多様性が低く、Enterobacteriaceaeの占有率が高いことが報告されている(1)。食物アレルギーの発症と腸内細菌との関連の機序を調べた動物試験では、腸内共生細菌の一つであるClostridium細菌が粘膜のバリア機能を高めるサイトカインIL-22を腸管で誘導することにより、食物アレルゲンの血中への流入を抑制し、食物アレルゲンへの感作から保護していることが示されている(2)。食物アレルギーと腸内菌叢との関連については明確な結論に至っていない部分も多いが、腸内菌叢の制御による食物アレルギーの新しい予防法や治療法の開発が期待されている。
参考文献
(1)Azad, M. B. et al., Clin. Exp. Allergy 45, 632-643 (2015).
(2)Stefka, A. T. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 111, 13145-13150 (2014).
(小田巻俊孝、岩淵紀介)