公益財団法人日本ビフィズス菌センター/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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腸管における定着性、細胞接着性、付着機構(colonization and cell adhesion of gut microbiota)

腸内常在細菌の多くは、流動性の高い腸内環境で、粘液層に付着したのちコロニーを形成し定着している。腸上皮を覆う粘液層は、上皮細胞に接する高密度の内層(Inner layer)と低密度で粘性の高い外層(Outer layer)の二層からなる。ヒト小腸の粘液層は、おおよそ30 µm以下の薄い内層と100 µm~400 µmの外層からなり、不均一の層を形成しているのに対して、大腸の粘液内層は100 µm 、外層は700 µmもの厚さにおよぶことが報告されている。これら二層のうち、外層のみから常在細菌が検出され、内層からは検出されない。粘液密度の高い内層は、病原細菌の細胞への侵入を防御するバリア機能を発揮しているのに対して、外層は常在細菌が日常的に接触し、定着の場を提供しているものと考えられる。粘液の主要構成成分であるムチンは、高度にO-グリコシル化された数百万にもおよぶ巨大糖タンパク質である。ムチン遺伝子はヒトで20種類程度見出されているが、消化管で発現している遺伝子は13種類とされている。また、分泌型と膜結合型ムチンが見出されているが、小腸や大腸における主要なムチンは分泌型のMUC2である。粘液層に定着の場を得ている細菌の多くは、ムチンへ付着性を有していることが推察され、その付着機構が解明されつつある。
受容体へ結合性を示す菌体側の付着因子はアドヘシンと呼ばれる。乳酸菌やビフィズス菌のムチンへのアドへシンを例に挙げると、菌体タンパク質性成分では、①分泌シグナルを有するS-layerタンパク質、②細胞壁アンカー型タンパク質、③ハウスキーピングタンパク質、の3種類に大別される。細胞壁アンカー型タンパク質では、Lactobacillus reuteri で最初に見出されたMubB、10菌種以上で相同配列が見出されているMucBP、Lactobacillus plantarumで見出されているマンノース結合性を示すMsaなどが報告されている。また、従来、乳酸菌やビフィズス菌においてその存在が不明であった線毛が、Lactobacillus caseiグループやBifidobacterium longumグループ、Bifidobacterium bifidumBifidobacterium animalisB. adolescentisで見出されており、Lactobacillus rhamnosus GGの線毛成分であるSpaCやB. longumのFimAがムチンに結合性を示すアドへシンであることが報告されている。Lactobacillusのハウスキーピングタンパク質においては、シャペロニンであるGroEL、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase, GAPDH)、ATP-binding cassette(ABC)トランスポーターの構成因子や翻訳伸張因子であるElongation factor Tu(EF-Tu)がムチンへのアドへシンとして報告されている。L. plantarum LA318のGAPDHの結合エピトープとしてムチン糖鎖に見られる血液型抗原が、一方、L. reuteriのEF-Tuの結合エピトープとしてムチンの硫酸化糖鎖構造が明らかにされている。その他の付着因子としては、リポプロテイン、リポテイコ酸やバイオフィルム形成にかかわる多糖類などが報告されている。
一方、in vitroの実験では、基底膜を構成するコラーゲン、ラミニン、フィブロネクチンなどの細胞外マトリックス(ECM)タンパク質に付着する菌株も見出されている。ECMタンパク質の多くは基底膜側に存在し、特に創傷部において表面に露出するものと推察されることから、腸内常在細菌の定着性にどの程度寄与しているかは不明であるが、in vivoにおいて特定のECMに付着する乳酸菌の腸内生残性が高まったとの報告がある。これまで報告されてきた付着因子の生体内で機能発現を証明した報告例はほとんど見られず、今後の課題であるといえる。

参考文献
1) Johansson ME, Larsson JM, Hansson GC. The two mucus layers of colon are organized by the MUC2 mucin, whereas the outer layer is a legislator of host-microbial interactions. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2011; 108:Suppl 1, 4659–4665.
2) 西山啓太,向井孝夫.乳酸菌とムチンの相互作用 -糖鎖を介した乳酸菌の腸粘膜への付着機構-.応用糖質科学.2015;5:33-43.

(向井孝夫)