Bacterial translocation(BT)は腸内に生息する生菌が腸管上皮を通過して腸管以外の臓器に移行する現象を指す。同じような現象で“日和見感染”があるがBTは細菌そのものが感染性を保持するものではなく、生理的な異常による侵入と言える。
BTは種々の要因により誘発される。1つに腸管内に通常低い菌数で生息する大腸菌、腸球菌などの菌が異常増殖した場合。例えば抗生物質投与で見られる菌交代症。2つに粘膜上皮細胞の損傷、粘液層の損傷。粘液層の減少、熱傷時の粘膜上皮の虚血による損傷、放射線照射による粘膜上皮細胞のターンオーバー異常、ザイモザンやricinolic acidなどの薬物による障害があげられる。3つに全身性・局所性の免疫機能の低下、免疫抑制剤の投与、免疫欠損など。4つに糖尿病、癌、熱傷、外傷などの全身性の消耗性疾患、これらは生体のバリヤーBTの抑制のためには機能そのものの崩壊と言える。
BTの抑制には非特異免疫増強剤であるPropionibacterium acnesホルマリンワクチン接種が報告されている。P. acnesを接種されたマウスの脾細胞やMLN細胞のマクロファージリッチな分画をP. acnes非接種マウス移植するとBTを抑制する。また、P. acnes接種マウスでは、MLNでのCD4+T細胞の割合が増加する。同じような免疫賦活剤であるmuranyl dipeptide(MDP)やグルカンではBTの抑制は見られない。興味あることに、無菌マウスではP. acnes接種でBTは抑制できない。腸内フローラはBT抑制機能に影響を与えていると考える。Bifidobacterium longumの培養濃縮液(MB)の経口投与で、BTの抑制効果がみられる。また、P. acnes接種マウスと異なり、無菌マウスでのBT抑制がみられる。MB投与マウスではパイエル板でのCD4+/CD8+比が高くなり、局所における免疫の活性化がみられる。P. acnes接種、MB投与マウスではともにパイエル板のマクロファージ貪食能、殺菌能は対照群に比べて亢進している。
BTの抑制、誘発と免疫機能に関しては、T細胞主役説とマクロファージ主役説があるが、両者の密接な関係によりBTのコントロールがなされていると考えられる。マクロファージは侵入してくる細菌を貪食、殺菌する一方、上皮細胞やM細胞から腸間膜リンパ節、肝臓、脾臓などへの運び屋としての役割を担っており、二面性を有していることが明らかとなっている。つまり、BTはM細胞や腸管上皮細胞を侵入口としてマクロファージに貪食され、殺菌的に働くか、運び屋になるかは各種サイトカインによるコントロールを受けていると考えられる。
(伊藤喜久治)