骨髄由来の共通前駆細胞は胸腺において機能の異なる3種類のT細胞へと分化する。1つは、MHC分子によって提示されたペプチド抗原を認識しないγδ型受容体を発現するT細胞であり、残りの2つはαβ型受容体を発現するT細胞である。αβ型に分化したT細胞は、胸腺で正の選択と負の選択を受ける間に、受容体のMHCに対する特異性によって、CD4あるいはCD8シングルポジティブ細胞へと分化する。CD4とCD8はT細胞の表面に発現する補助受容体であり、それぞれMHCクラスII分子、MHCクラスI分子の保存された領域に結合する。
正および負の選択を受けて選別された胸腺細胞は、胸腺を出て成熟ナイーブCD4+ T細胞あるいはCD8+ T細胞として全身循環に入る。これらナイーブT細胞は血液やリンパ系を循環し、二次リンパ組織(リンパ節、脾臓、粘膜関連リンパ組織)において、樹状細胞により提示を受けた特異的抗原に遭遇すると活性化され、エフェクターT細胞に分化する。エフェクターCD8+ T細胞は、MHCクラスI分子を介して提示されたウイルス抗原などを認識して活性化し、感染細胞を排除する。このため、エフェクターCD8+ T細胞は細胞傷害性T細胞とも呼ばれる。MHCクラスIは、赤血球を除くほぼ全ての細胞に発現する。一方、CD4+ T細胞への抗原提示に必要なMHC クラスIIは、末梢組織では樹状細胞、マクロファージ、B細胞などプロフェッショナル抗原提示細胞にのみ発現する。
エフェクターCD4+ T細胞は、発現するサイトカインによって、Th1, Th2 およびTh17細胞に分類される。このうちTh1細胞は、感染部位に移動した後、IFN-γを分泌し、マクロファージによる病原体の取り込みや殺傷能を増強する。Th17は粘膜組織において、上皮細胞からの抗菌ペプチド・レクチンの産生を促すとともに、好中球を活性化することで、粘膜面の感染防御に働く。一方、Th2細胞は、二次リンパ組織に留まり、共刺激分子の発現やIL-4の分泌によって、抗原特異的なナイーブB細胞の活性化とクラススイッチを促す。さらにCD4+ T細胞サブセットの中には、Foxp3を発現し、抗原特異的に免疫応答を抑制する制御性T細胞(Treg)も存在する。Tregは、末梢組織に発現した自己抗原を認識する自己応答性T細胞の活性化と増殖を抑制し、自己免疫免疫疾患の発症を防いでいる。FOXP3遺伝子に変異を有する患者は、Tregの機能異常によりIPEX症候群と呼ばれる重症の自己免疫性疾患を発症する。このようにTregによる免疫制御は、免疫寛容の成立や免疫恒常性の維持において重要な役割を担っている。
(長谷耕二)