胸腺で成熟したナイーブCD4+ T細胞は、二次リンパ組織で活性化されてエフェクター機能を獲得するが、それぞれ異なった機能を持つエフェクター細胞(Th1, Th2, Th17など)に分化し、免疫応答において相補的な役割を担っている。このうち、Th1細胞は、速やかに血流に入り、感染部位へ移動し、IFN-γやIL-2などのサイトカインを分泌し、マクロファージの活性化や炎症反応を引き起こす。これによりマクロファージの細胞外環境で感染した病原体を貪食し殺傷する能力、および、プロフェッショナル抗原提示細胞としての機能が強化される。一方で、Th2細胞は、IL-4やIL-5などのサイトカインを分泌し、二次リンパ組織で同じ抗原を認識するナイーブB細胞を活性化させる。活性化B細胞は胚中心反応により、細胞分裂・クラススイッチ・親和性成熟を行い、最終的に抗体を分泌する形質細胞へと分化する。Th2細胞の活性化によるIgE産生誘導は、寄生虫排除に重要であるが、アレルギーの原因ともなる。
活性化ナイーブT細胞が辿る分化過程は、活性化初期に存在していた二次リンパ組織の微小環境によって決定される。特に、局所に産生されるサイトカインはT細胞の運命決定に重要である。サイトカインは、T細胞と、その活性化を誘導する樹状細胞の両方に影響する。Th1細胞の分化を促進するのはIL-12とIFN-γであるが、IL-12は樹状細胞とマクロファージから、IFN-γは主にナチュラルキラー(NK)細胞などから産生される。これらのサイトカインがCD4+ T細胞上の受容体に結合すると、STAT1およびSTAT4シグナル伝達経路が活性化し、T-betと呼ばれる転写因子の発現が誘導される。T-betはIFN-γの遺伝子発現をオンにする。これにより細胞はTh1細胞へと運命づけられ、大量のIFN-γを発現するようになる。一方でIL-4は、STAT6シグナル経路を活性化し、転写因子GATA-3の発現が誘導される。GATA3はTh2細胞に特徴的なIL-4, 5, 13などの遺伝子発現を誘導する。このようにTh2への細胞運命が決定され、Th2細胞がIL-4を分泌し始めると、さらに活性化CD4+ T細胞がTh2細胞に分化するのに適した環境ができる。Th2細胞への分化を開始させるIL-4産生細胞はまだ十分には解明されていないが、その有力な候補として好塩基球などが考えられている。
Th1細胞とTh2細胞は、その環境に応じて、お互いの機能を制御し平衡関係を保っており、この平衡関係はTh1/Th2バランスといわれ、このバランスがどちらかに傾くことにより、炎症やアレルギーなどそれぞれに特有の疾患が生じる。
(長谷耕二)