生命の最小単位である細胞では、細胞分裂の際にDNA複製が行われる。DNAの二重らせん構造は解かれ、その一本鎖DNAが鋳型となり、DNAポリメラーゼ(合成酵素)によって新たなDNAが完成する。PCR(polymerase chain reaction;DNAポリメラーゼ連鎖反応)は、このDNA複製を人工的に繰り返すことで、目的とする塩基配列のみを効率的に増やすことができる技術である。RT-PCRやreal-time PCRと区別するため、conventional PCRやDNA-PCRと呼ばれることもある。
二本鎖DNAは、高温環境下で変性し、一本鎖DNAに分かれる(Denaturation)。逆に、一本鎖DNAは冷却すると、二本鎖DNAに結合するように働く(Annealing)。PCRは、このDenaturationとAnnealingを利用する。PCR反応液中に、検出対象となるtemplate DNA、DNAポリメラーゼ、一対のプライマー(Primer)を加え、加熱と冷却を繰り返し、PCR産物の有無を確認する。
PCRで最も重要なものがプライマーである。プライマーとは、増幅させたい塩基配列の両端をターゲットとした相補的配列のDNAである。一般的に,各々のプライマーは18 ~ 24 bp程度に設計し、増幅させたい塩基配列は80 ~ 160 bpとする。PCRの場合、このプライマーの配列が特異的であることが望ましく、また、このプライマーの配列によってAnnealingの温度が決定する。
PCRがDNAを増幅させる技術である一方、RT-PCR(reverse transcription PCR)はRNAに対してPCRを実施する手法である。逆転写PCRやRNA-PCRなどと呼ばれることもある。
RT-PCRは、まずRNAから逆転写酵素reverse transcriptaseによってcDNAを合成し(cは相補的complementaryのこと)、あとはcDNAに対して通常のPCR法を行う。そのため、逆転写酵素の過程以外は検査方法の原理はPCRと同一である。実際の操作でも、逆転写酵素反応の1ステップのみが増えるだけで、それ以外の追加作業を要さなくなるまで試薬などが進歩している。用語や技術の説明は上述の「PCR」を参照。
リアルタイムPCR(real-time PCR)は、PCRによるDNA複製過程をリアルタイムに測定する手法である。PCR産物をサイクル毎にモニターするため増幅産物の定量ができ、また検出も兼ねているためアガロースゲルを使用したDNA断片の確認操作を省けるといった利点がある。定量的PCRなどと呼ばれることもある。
Real-time PCRは、増幅産物を蛍光物質の測定によって定量する。そのため、real-time PCR装置は、蛍光色素を励起する励起光源、蛍光を検出する検出器、PCR装置(Thermal cyclerとも呼ばれる)を組み合わせた物である。PCRで増幅させるDNAの両端にある2つのプライマーに加えて、その間に相補的配列を認識するプローブ(Probe)を用いる。プローブは、増幅されるDNAに特異的な配列を用いるため、目的とするDNAが増幅されたのかを確認することにもなる。プローブが加えられている以外、検査方法の原理はPCRと同一である。用語や技術の説明は上述の「PCR」を参照。
現在では、多くのreal-time PCR法が開発されているが、TaqMan®プローブ法とSYBR® Green法が簡易なため主流となっている。増幅産物の1塩基変異を検出できるLNA®プローブ法なども応用されている。
(平間 崇)