公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

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腸内細菌叢と免疫チェックポイント阻害剤(Gut microbiota and Immune checkpoint inhibitors)

近年、多くのがんにおいて免疫チェックポイント阻害剤を用いたがん免疫療法の開発が試みられている。例えばprogrammed cell death protein 1 (PD-1)や、そのリガンドPD-L1、cytotoxic T-lymphocyte associated protein 4 (CTLA-4)などの免疫チェックポイントに関連する因子の抗体が臨床的に使用されている。本来、免疫チェックポイントは過剰な免疫反応を抑制するための防御機構であるが、進行中のがんではがん細胞が免疫チェックポイントを活性化することで、がん細胞を排除する免疫反応を抑制し、がんの進行を促進する。免疫チェックポイント分子を発見した京都大学高等研究院特別教授の本庶佑氏と米国MD Anderson Cancer CenterのJames Patrick Allison氏は、2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

なお、免疫チェックポイント阻害剤は全てのがん患者に効果があるわけではないため、治療前にレスポンダーを予測するバイオマーカーの同定やノンレスポンダーでも効果が期待できるような治療方法の開発が大きな課題となっている。

最近、特定の腸内細菌ががん免疫反応を増強し、免疫チェックポイント阻害剤の作用を助けることが分かり注目を集めている。2015年にマウスモデルにおいて、Bifidobacterium longumやBacteroides fragilisなどにがん免疫反応を増強する作用が確認された。その後2018年に、欧米の3つの研究グループからヒトにおける効果が報告された。免疫チェックポイント阻害剤のレスポンダーとノンレスポンダーの腸内細菌叢を比較したところ、レスポンダーの腸内細菌叢は多様性が高く、特徴的な腸内細菌としてBifidobacterium longum、Collinsella aerofaciens, Enterococcus faecium, Enterococcus hirae, Akkermansia muciniphila, Ruminococcaceae/Faecalibacterium prausnitziiなどが見つかった(1,2,3)。同様に、抗PD-1抗体療法を受けた日本人の肺がん及び胃がん患者のレスポンダーにおいても、ノンレスポンダーに比べ腸内細菌叢の多様性が高く、Ruminococcaceaeが多く検出された(4)。これらの結果は、バイオマーカーとしての腸内細菌叢の有用性を示すと同時に、腸内細菌叢をコントロールすることができれば免疫チェックポイント阻害剤を効果的に使用できる可能性を示しており、便移植、生菌製剤、さらにはがん免疫細胞を強く活性化させる細菌カクテルなどを組み合わせた新たな治療方法が臨床研究にて取り組まれている。

これまでにも免疫細胞を活性化させる治療法は研究されているが、過剰な免疫の活性化による副作用が懸念されている。腸内細菌叢の制御はより緩やかに免疫反応を誘導できるのではないかと考えられており、免疫チェックポイント阻害剤との併用に期待が集まっている。

参考文献

1) Gopalakrishnan V, Spencer CN, Nezi L, Reuben A, Andrews MC, Karpinets TV, et al. Gut microbiome modulates response to anti-PD-1 immunotherapy in melanoma patients. Science 2018; 359: 97-103.
2) Matson V, Fessler J, Bao R, Chongsuwat T, Zha Y, Alegre ML, et al. The commensal microbiome is associated with anti-PD-1 efficacy in metastatic melanoma patients. Science 2018; 359: 104-108.
3) Routy B, Le Chatelier E, Derosa L, Duong CPM, Alou MT, Daillere R, et al. Gut microbiome influences efficacy of PD1-based immunotherapy against epithelial tumors. Science 2018; 359: 91-97
4) Fukuoka S, Daisuke M, Togashi Y, Sugiyama E, Udagawa H, Kirita K, et al. Association of gut microbiome with immune status and clinical response in solid tumor patients who received on anti-PD-1 therapies. J Clin Oncol. 36 (15_suppl): 3011-3011

(吉本 真)