公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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パイエル板とM細胞(Peyer's patches and Microfold cells)

パイエル板は空腸、回腸に点在する免疫器官の一つである。腸管を外側から見たときに、パイエル板は腸管を支える腸間膜の付着部位とは反対側に存在し、特有の凹凸を示すため、肉眼での識別が容易である。腸管内腔から見ると、絨毛が存在せず平坦な部位となる。

パイエル板は複数のリンパ濾胞が集まった集合リンパ小節であり、個々のリンパ濾胞のなかには活性化した胚中心を持つものが多い。パイエル板にはB細胞が多く集まり、非自己物質に対する抗体産生の場として働く。B細胞が集積したリンパ濾胞はドーム状の濾胞関連上皮(Follicle-associated epithelium, FAE)で覆われる。濾胞の周囲は高内皮細静脈が通りT細胞領域を形成する。FAEと濾胞の間には、樹状細胞やマクロファージが多く集まる。

パイエル板は被膜で覆われたリンパ節とは異なり、周囲の粘膜固有層との境界が曖昧である。リンパ節が輸入リンパ管を通って、抹消組織から流入してきた非自己抗原への免疫応答を発動するのに対して、パイエル板ではFAEを通過した粘膜上の非自己抗原に対する免疫応答を担当する。

Microfold 細胞(M細胞)はFAEに存在し非自己抗原の取り込みが活発な細胞である。分解を行う細胞内小器官は未発達であり、取り込まれた物質はM細胞内で分解を受けずに経上皮輸送によって側基底膜側へと運ばれると考えられている。

M細胞は特徴的な構造を持つ。腸管管腔に面するM細胞の頭頂部はヒダ状の構造で覆われ、管腔内物質が細胞表面へと接しやすく取り込みに有利である。基底膜側は大きく陥入し、リンパ球やミエロイド系の細胞が入り込んだM細胞ポケットを形成する。結果として、M細胞ポケット内の細胞と管腔の間は薄い膜だけとなり、管腔側から取り込まれた物質がM細胞内を通過する距離が短くなり、速やかに抗原は上皮下へと運ばれる。

ヒトとマウスで共通するM細胞の発現分子としてGlycoprotein 2(GP2)、Spi-B、Sox8が報告されている。M細胞はGP2の発現によって2つの集団に分類でき、取り込み能が高いM細胞はGP2を多く発現している。

M細胞は腸管上皮幹細胞がTnfファミリーのRANKLの刺激を受けることで分化が開始する。FAEの直下にはRANKLを発現する特殊な間質細胞(M cell inducer cell, MCi cell)が存在し、M細胞分化を制御している。

パイエル板と同様な構造は小腸以外の他の粘膜組織にも存在する。マウスの研究により、ヒト盲腸や扁桃に相当する器官、および下気道粘膜にM細胞が存在することが明らかになっている。

(木村俊介)