公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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メタゲノム解析(metagenomic analysis)

メタゲノム解析の「メタ」とは、「超越」を意味するメタ(meta-)に「ゲノム」を融合した造語であり、微生物群集を培養することなくそのままゲノムを精製して直接、シークエンスすることで網羅的に解析することをメタゲノム解析とよぶ。ここでいう「網羅的」とは、サンプル中の微生物を単離したり培養することなくすべての細菌DNAを混合物として抽出し、菌株レベルではなくDNA集合体を網羅した状態で塩基配列を解読することである。その結果、培養法が不明で培養できない微生物のゲノム配列も得ることができ、バイオインフォマティクスに基づく解析で既知ではない細菌やその存在比率を推定することもできる。
酵素遺伝子に着目した機能的なメタゲノム解析の手法は1980年代に考案されていたという報告もあるが、実質的なメタゲノム解析の最初は、2000年に海水をサンプルとし数十キロbpの微生物DNAをベクターに連結して網羅的に配列解析した報告であるとされる1)。2004年にはサルガッソ海の海水を用いて海洋細菌のメタゲノム解析が行われた2)。その論文では、1兆bpの非重複塩基配列を取得できたことで、1,800種の細菌種の中に148種の未知の菌種が含まれていることを推定し、また未知の12億の遺伝子が同定された。これらの研究成果から、メタゲノム解析は環境中の微生物群集の解析や新規遺伝子の発見につながることが認識された一方で、メタゲノム解析ではサンプル中の構成比の大きく異なる微生物の混合した塩基配列情報が得られてくることの対処が求められた。その結果、メタゲノム解析に特化した遺伝子予測プログラムが開発されてきた経緯がある。
メタゲノム解析により、これまで知見のない酵素遺伝子の候補を見出すことが可能であることから環境浄化に関与する新規遺伝子やエネルギー獲得に貢献する遺伝子の獲得、環境微生物群集の生態解明に大きな成果をあげている一方で、ヒトやその他の生物の腸内細菌叢と生体影響に関する知見が蓄積してきている。

参考文献:
1) Beja, O., Suzuki, M., Koonin, E., Aravind, L., Hadd, A., Nguyen, L., Villacorta, R., Amjadi, M., Garrigues, C., Jovanovich, S., Feldman R. and DeLong, E., Construction and analysis of bacterial artificial chromosome libraries from a marine microbial assemblage. Environ. Microbiol., 2: 516-529 (2000).
2) Venter, J., Remington, K., Heidelberg, J., Halpern, A., Rusch, D., Eisen, J., Wu, D., Paulsen, I., Nelson, K., Nelson, W., Fouts, D., Levy, S., Knap, A., Lomas, M., Nealson, K., White, O., Peterson, J., Hoffman, J., Parsons, R., Baden-Tillson, H., Pfannkoch, C., Rogers Y. and Smith, H., Environmental genome shotgun sequencing of the Sargasso Sea. Science, 304: 66-74 (2004).

(森田英利)