Immunoglobin A (IgA) 抗体は主に血清中と粘膜面に存在しており、とりわけ粘膜面に分泌される分泌型IgA抗体は粘膜面の恒常性維持に非常に重要な役割をもつ。IgA抗体は、哺乳類においては最も多く産生される抗体アイソタイプであり、ヒトにおいてはIgA1およびIgA2の2種類のサブクラスが存在しているが、実験的に用いられるマウスにおいては1種類のIgAクラスしか存在しない。ヒトIgA1抗体は粘膜系および血中を含む非粘膜系の両組織に広く分布し、主に単量体として存在する。ヒトIgA1抗体に比較してIgA2抗体は主に粘膜系組織に分布し、二量体を形成していることが知られている。一方でマウスIgA抗体に関しては、粘膜系・非粘膜系組織を問わず二量体を形成していることが知られる。この様に種間で抗体サブクラスの分布や構成単位に違いはあるものの、粘膜系と非粘膜系組織ではIgA抗体の由来が異なることが示唆されている。
IgA抗体は主にパイエル板を含む腸管関連リンパ組織や粘膜関連リンパ組織において、IgM+ B細胞からactivation-induced cytidine deaminase (AID) により誘導されるクラススイッチ組換えを介して分化するIgA産生細胞から産生される。IgA抗体の産生経路はB細胞のクラススイッチ過程におけるT細胞の関与の有無により、T細胞依存的経路とT細胞非依存的経路の2つに大別される。T細胞依存的IgA産生経路はパイエル板などの胚中心に存在する濾胞性T細胞や濾胞性樹状細胞とIgM+ B細胞の相互作用を介してIgA+ B細胞へクラススイッチする。一方でT細胞非依存的IgA産生経路では腸管粘膜固有層に存在する樹状細胞やマクロファージなど自然免疫系細胞とIgM+ B細胞の相互作用によって、IgA+ B細胞へのクラススイッチおよびIgA産生細胞への分化が誘導される。これらの経路で産生されるIgA抗体の多くがjoining chain (J鎖) を介して多量体を形成していることが知られている。これらのIgA抗体は上皮細胞基底膜に発現するpolymeric immunoglobulin receptor (pIgR) がJ鎖を介して多量体IgA抗体と結合することで、上皮細胞に取り込まれ小胞体輸送により粘膜面へ分泌される。
粘膜面における病原微生物の感染時、病原体および病原毒素に対して高親和性IgA抗体が産生されることで、これらの体内への侵入を防止している。一方で非感染時においてもIgA抗体は粘膜面に多量に存在しており、恒常的に産生されるIgA抗体の中には抗原分子に対する特異性は高くはないものの多様な抗原を認識することのできる、poly-reactive IgA抗体の存在が示唆されている。これらは正常な腸内細菌叢維持に重要であると考えられているが詳細な作用メカニズムは不明な点が多く残されている。これまでpoly-reactive IgA抗体はT細胞非依存的IgA産生経路により産生されると考えられていたが、近年の研究ではT細胞依存的経路の関与も示唆されており、今後の解析が期待される。
(森田直樹)