公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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オリゴ糖(oligosaccharide)

本来は2 ~ 8単位の単糖がグリコシド結合で連結した炭水化物の意味であるが、プレバイオティクス(摂取者の健康を増進する働きをもつ腸内細菌の増殖・定着に効果のある成分を添加した食品)としてのオリゴ糖の食品機能が注目されている。大腸内で有用細菌ビフィズス菌の増殖を促進するオリゴ糖には、ヒトの母乳に含まれるミルクオリゴ糖(ヒトミルクオリゴ糖)と食品添加物として利用される工業的に生産されるオリゴ糖とがある。
ヒトの母乳には主要な糖質としてのラクトースの他に、12 ~ 13 g/Lの濃度でミルクオリゴ糖が含まれているが、それはラクトース、脂質につぐ3番目の固形成分である。大半のヒトミルクオリゴ糖(HMOs)は還元末端側にラクトース単位を含み、それにN-アセチルグルコサミン(GlcNAc), ガラクトース(Gal), フコース(Fuc)またN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)が結合した分子構造をもつオリゴ糖を総称している。これまでに250種類以上のHMOsが分離され、約170種類の化学構造が決定されているが、それらはFucやNeu5Acを含まない20種類のコア骨格に基づいて分類される。HMOsが乳児の腸管に定着するビフィズス菌の菌株によって代謝される経路は、近年ほぼ解明された。Bifidobacterium longum subsp. infanisの菌株は、HMOクラスターと言われる43 キロ塩基ペアのその代謝に関わるタンパク質・酵素をコードする遺伝子群の集まった領域をゲノム内に有している。HMOsはトランスポータータンパク質の働きによって細胞内に輸送されて、ついで非還元末端から各種のグリコシダーゼによって順次加水分解される。一方HMOsの中で優先的なラクト-N-ビオース1(Galβ1-3GlcNAc, LNB)単位を有するオリゴ糖(タイプ1型HMOs)は、HMOクラスター内のβ-ガラクトシダーゼによって加水分解されず、クラスターの外側に位置する基質特異性の異なるβ-ガラクトシダーゼによって消化される。このような菌体内消化によるHMOsの代謝経路は、母乳栄養児の糞便から分離されたBifidobacterium breveの菌株にも発見されている。
一方Bifidobacterium bifidumではこれとは異なる、菌体外消化による代謝経路が発見された。B. bifidumはN-アセチルラクトサミン(Galβ1-4GlcNAc)単位を含むミルクオリゴ糖(タイプ2型HMOs)を、菌体外でグリコシダーゼ(シアリダーゼ、フコシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、βN-アセチルヘキソサミニダーゼ)によって単糖に加水分解するが、タイプ1型HMOsからはラクト-N-ビオシダーゼによってLNBを遊離する。LNBはトランスポーターによって菌体内に輸送されてから、特異的なホスホリラーゼによってGlcNAc-1-PとGalに過リン酸分解される。その一方、B. bifidumはHMOsから遊離したNeu5Ac, Fuc, Galなどの単糖を菌体外に残すので、他のビフィズス菌はそれらを増殖源として利用することができる。B. longum subsp. infanisB. breveの菌株はラクト-N-ビオシダーゼは発現しないが、LNBを代謝する経路は有しているので、B. bifidumが生産したLNBを増殖源とすることができる。実際にHMOsを唯一炭素源としたヒト糞便のin vitro培養において、B. bifidumを添加することによって他のビフィズス菌種の数が上昇することも観察されている。
またB. breveB. longum subsp. infantisなどは、FLトランスポーターというHMOsの中でも優先的なFucを含むオリゴ糖(2’-FL, 3-FL, LDFT)を特異的に取り込むトランスポーターを有しており、FLなどの特定のHMOsを利用するHMOs代謝経路も発見された。FLトランスポーターには、2’-FL(Fucα1-2Galβ1-4Glc)と3-FL[Galβ1-4(Fucα1-3)Glc]への親和性の異なる2種類が存在する。
HMOsにはこのような腸管内ビフィズス菌の増殖促進効果に他に、病原性細菌やウィルスが腸管に付着するのを阻害する、ワクチン効果の増強による免疫能向上と感染防御、腸管バリア機能の強化による乳児壊死性腸炎の予防、免疫調整による抗炎症、乳児の脳神経系形成促進などの効果も予想されている。HMOsを工業的に生産する技術開発は困難であったが、近年2’-FL, LNnT(Galβ1-4GlcNAcβ1-3Galβ1-4Glc), 3’-SL(Neu5Acα2-3Galβ1-4Glc)など一部のオリゴ糖の生産が開始され、育児用調製乳などへの添加が開始されている。
腸管内ビフィズス菌増殖促進、肝性脳症治療、骨粗しょう症予防などのプレバイオティクス効果から育児用調製乳や機能性食品への添加素材として、ガラクトオリゴ糖やラクツロース(Galβ1-4Fru)、ラクトスクロース(Galβ1-4Glcα1-2Furβ)また植物由来のフルクトオリゴ糖やラフィノース(Galα1-6Glcα1-2Furβ)が利用されている。各種のビフィズス菌の菌株レベルによるガラクトオリゴ糖, ラクツロースまたラフィノースへの代謝経路も解明されている。
ガラクトオリゴ糖はチーズ製造時に副産物であるチーズホエーを原料とし、含まれるラクトースから微生物の生産するβ-ガラクトシダーゼによる糖転移反応を利用して調製される。4’-GL(Galβ1-4Galβ1-4Glc), 3’-GL(Galβ1-3Glaβ1-4Glc), 6’-GL(Galβ1-6Galβ1-4Glc)の3種のガラクトオリゴ糖に対し、ビフィズス菌による固有の代謝経路がある。B. breveは4’-GLをトランスポーターの働きで菌体内に輸送し、基質特異性の高いβ-ガラクトシダーゼによって消化するが、同酵素は3’-GLや6’-GLには消化性をもたない。B. breveは3’-GLと6’-GLを親和性の異なるトランスポーターによって菌体内輸送し、他のβ-ガラクトシダーゼによって加水分解する。B. longum subsp. infantisの菌株ではHMOsクラスター内のトランスポーターによって4’-GL, 3’-GL, 6’-GLを菌体内輸送するが、それぞれ基質特異性の異なる3種類の菌体内β-ガラクトシダーゼによって消化する。
ラクツロースは、ラクトースのアルカリ異性化反応によって調製される。B. longum subsp. longum の菌株にはラクツロース特異的なトランスポーターを有するが、そのホモログ遺伝子はBifidobacterium adolescentisなどのラクツロース資化性をもったビフィズス菌の菌株にも発見される。ラクツロースはB. breveにおいては、パーミアーゼと2種のβ-ガラクトシダーゼによって代謝される。
ラフィノースは、ビートから砂糖を抽出する際の副産物である。それはB. breveの菌株において、2種のABCタイプトランスポーター. α-ガラクトシダーゼ、およびスクロースホスホリラーゼの働きで消化される。
フルクトオリゴ糖はチコリやヤーコンの根に含まれるイヌリンから製造されるか、スクロースを原料としてβ-フルクトフラノシダーゼによる転移反応によって調製される。前者はβ2,1結合によってフルクトースがつながった構造を、後者は還元末端にスクロースを含み、1~3単位のフルクトースがβ2,1結合によって付加した構造を有する。フルクトオリゴ糖を炭素源としたin vitro培養によってB. adolescentis, B. breve, B. longum subsp. longum, B. longum subsp. infantisなどのビフィドバクテリアやLactobacillus bulgaricus, L. acidophilus, L. plantarum, L. caseiなどのラクトバチルスの増殖が確認されている。
このように、各種のビフィズス菌によるプレバイオティクスオリゴ糖に対する代謝経路が解明されたことにより、様々な機能性を強化した機能性食品の開発に各種のオリゴ糖やプロバイオティクスビフィズス菌の選択が可能になる。

(浦島 匡)