公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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肝性脳症(hepatic encephalopathy)

肝性脳症(肝性昏睡)は、高度に進行した肝硬変などの慢性肝不全状態、劇症肝炎などの急性肝不全などの高度に肝機能が低下した時、あるいは門脈−体循環短絡を有する患者に合併して起こる症状の1つである。肝性脳症は体内で発生した、もしくは腸管から吸収されたアンモニアや芳香族アミンなど中毒性物質が肝臓で解毒されることなく中枢神経に到達することで生じる。症状の特徴として意識障害、異常行動、羽ばたき振戦を呈する多彩な神経症状をきたす症候群である。肝不全状態に蛋白質過剰摂取、便秘などの誘因が加わることによって引き起こされる。意識障害は軽度なものから深昏睡に至るまで幅広い。
急性型では劇症肝炎、慢性型では肝硬変および肝癌が代表的な基礎肝疾患である。また、明らかな肝疾患の存在がない特発性門脈圧亢進症といって門脈−大循環短絡路(肝内、肝外以外)の形成がみられる症例にも存在する。また、代謝性肝疾患である先天性尿素サイクル異常症にも肝性脳症がみられることがある。
原因として、腸内細菌が産生したアンモニアや血漿アミノ酸の不均衡などが考えられている。事実、これらを是正すると症状の改善がみられる。アンモニア産生菌としてウレアーゼによって尿素からアンモニアを産生するウレアーゼ産生菌がある。ピロリ菌が有名であるが、腸内にはProteus mirabilis、Pseudomonas aeruginosa、Klebsiella属、Morganella morganii、Corynebacteriumなど多菌種のウレアーゼ産生菌がある。高アンモニア血症を伴わない肝性脳症も少数であるが存在することから、その他の説として、多因子説、アミノ酸代謝異常説、偽性神経伝達物質説、γ−アミノ酪酸/ベンゾジアゼピン受容体複合体異常などがある。
治療の基本は高アンモニア血症の是正と感染制御にある。(1)食事指導:慢性肝不全の代表である肝硬変は低血糖を起こしやすいので、最近は頻回食と就寝前軽食(late evening snack:LES)が推奨されている。(2)分岐鎖アミノ酸製剤:分岐鎖アミノ酸製剤は芳香族アミノ酸およびメチオニンを少なく配合したアミノ酸製剤である。意識レベルの改善、血中アンモニアの低下を期待でき、わが国では顕性脳症に対する第一選択として使用されている。(3)ラクツロース;ラクツロースは乳糖を原料として作られるオリゴ糖で、ミルクオリゴ糖とも呼ばれている。ラクツロースを服用すると、腸内で善玉菌であるビフィズス菌が増えてアンモニアを作る悪玉菌を減らし、ビフィズス菌が作る有機酸が腸内で発生したアンモニアを吸収しにくくするというダブルの効果を発揮し、血液中のアンモニアを減らし、症状改善につながる。(4)腸管難吸収性抗菌薬: 従来は難吸収性のカナマイシン、ポリミキシンBの経口投与でアンモニア低下がはかられてきたが。最近は同じ難吸収性のリファキシミンが新薬として認可され、副作用が少なく簡便であることから頻用されている。

参考文献:
正木 勉:肝不全・肝性脳症、矢崎義雄編 内科学書第11版、朝倉書店、東京、pp. 1046-1048, 2017. 

(大草敏史)