腸粘膜消化吸収障害をきたす小腸疾患の代表的疾患としてセリアック病(celiac disease)がある。この疾患はグルテン過敏性腸症、またはセリアックスプルーなどとも呼ばれている。米国では113人に1人(1%)という高頻度で発症するため欧米では大問題となっているが、わが国では非常にまれである。原因は厳密には不明であるが、ムギ(小麦・大麦・ライ麦など)に含まれるタンパク質の一種であるグルテンに対する免疫反応が引き金になって起こる。小腸上皮cryptの過形成を伴い正常の絨毛形態が失われ“flat mucosa”を呈して、小腸の栄養素吸収機能が障害される。その結果、下痢が頻回となり、多彩な栄養不良(鉄欠乏、葉酸欠乏、骨軟化、低蛋白)を呈する。
診断は、通常、血液抗体検査と小腸生検の組み合わせによって行われる。上記の小腸粘膜生検による病理組織学的検査のほかに、血清学的マーカー検査として、抗グリアジン抗体(AGA)と抗筋内膜抗体(EMA)、抗組織トランスグルタミナーゼ抗体(tTG)が用いられる。これらを併用すると、陽性および陰性適中率はほぼ100%となる。また、抗ヒトtTG抗体検査は、ほぼ100%に近い感度を示す。
治療法としては、グルテンを除去した厳格なグルテンフリーの食事であり、パンなどの小麦製品は禁である。グルテンフリー食は腸粘膜の回復につながり、下痢などの症状を改善し、ほとんどの人で合併症を発症するリスクを軽減する。逆にこの治療しないと、腸リンパ腫などの癌が生じ、早期死亡のリスクがわずかに高くなる可能性もある。
この病気に関しては、時々下痢をするだけの軽症から栄養失調となるやせ細る重症まで様々であり、また、20歳代に自然に治癒する症例もある。
参考文献
安藤 朗:吸収不良症候群、矢崎義雄編 内科学書第11版、朝倉書店、東京、pp. 988, 2017.
Harrison’s Principles of Internal Medicine 20th ed. Celiac Disease, editors, J. Larry Jameson, et al. McGraw-Hill Education, New York, pp. 2251-2253, 2018.
(大草敏史)