公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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糞便移植療法(fecal microbiota transplantation)

糞便移植(Fecal Microbiota Transplantation: FMT)は何世紀も前から馬の慢性下痢や牛、羊の胃のアシドーシスに対する治療法として獣医領域で施行されていた。また、中国では4世紀の晋の時代にヒトの食中毒や重症下痢にFMTが行われ、欧米でも健康回復のため16世紀から行われていた。しかし、食中毒や下痢についてはその後原因菌やウイルスが発見されたため、抗菌薬や輸液などが治療の主体となっていた。このFMTに再度光を当てたのが、2013年にVan Noodらが、抗菌薬では治らなかった再発性Clostridium difficile(CD)感染症に対してFMTを行いCDが除菌できたという論文である。CD感染症とはもともと腸内細菌叢に存在するCDが抗菌薬投与による菌交代により異常増殖し、トキシンを産生し腸粘膜に黄白色の偽膜を作り偽膜性腸炎を呈する病気である。同菌はバンコマイシンやメトロニダゾールに対して感受性であり、本邦ではこの2剤のいずれかの投与により除菌され難治となることは少ない。しかし、欧米では再発性や上記2剤に抵抗性のCD感染があり、臨床的に大問題となっている。これらの難治性CD感染に対して、FMTが唯一有効な治療法と認められて、現在まで多数のFMT治療例が行われ、いずれも80%以上と高い有効率が報告されている。
炎症性腸疾患(IBD)に対するFMTも行われ、潰瘍性大腸炎では著効の症例報告や有効性を証明したランダム化二重盲検試験も報告されているが、無効であったという報告もあり、FMTについては現時点では有効性は確定していない。クローン病に対するFMTについても同様で、FMTの効果も確定していない。しかし、著効例もあることから様々な治療法でも治らなかった難治症例にはFMTを試行しても良いと思われる。過敏性腸症候群(IBS)、慢性便秘や肥満などのメタボリック症候群に対するFMTも行われており、有効であったという症例報告も出ている。上記疾患のほかに、動脈硬化や自閉症、多発性硬化症などで腸内細菌叢の異常が原因と推測されており、FMTが試みられている。
最近、腸内細菌が上記疾患をはじめ、さまざまな疾患に関与しているということが分かってきた。その応用としてFMTが注目され、CD感染に対するFMTは多くの研究で有効性が認められてきた。しかし、本邦では衛生思想が強くFMTについては拒否感も多く、CD感染も少ないためか、FMTの報告は少ない。さらにFMTの施行法についても、適切なFMT注入法や注入量は?1回の注入より複数回の注入の方が有効なのか?FMTに有効な健常ドナーの腸内細菌叢とは?など課題は多い。また、FMTによって多剤耐性細菌の感染による死亡例などの副作用も報告されている。従って、将来的にはFMTで有効であった健常ドナー便の解析を行い、そのレシピに基づいた多種類プロバイオティクス製剤によるFMT製剤を作るべきではないかと考える。

参考文献
大草敏史、小井戸薫雄:fecal microbiota transplantationとその臨床応用、日本内科学会誌2015;104:42-47. 

(大草敏史)