ビタミンとは、生体の代謝に必要な微量有機化合物で、体内で必要量を合成できないものを指す。大腸に常在する腸内細菌のなかには、ビタミンを合成する能力を有する細菌が存在し、8種のビタミンB群(ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビオチン、葉酸、ビタミンB12)と脂溶性ビタミンであるビタミンKが腸内細菌により産生される。現在、培養試験によるビタミン産生や細菌のゲノム解析から、以下のようなヒト腸内細菌がビタミン産生能を有すると考えられている(表参照)。ビタミン合成にかかわるすべての酵素遺伝子を有する細菌種は、そのビタミンを単独で合成を完結できる。一方、ビタミン合成酵素の遺伝子を部分的に有する複数の細菌種によりひとつのビタミンを生合成する場合もある。大腸では後者のようなビタミン合成も行われている。
化合物名 | ビタミン名 | 生合成にかかわると推定される主なヒト腸内細菌 |
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チアミン | B1 | Firmicutes門を除く細菌、特にBacteroidetes門とFusobacteria門 |
リボフラビン | B2 | Bacteroidetes門、Fusobacteria門、Proteobacteria門 Firmicutes門の一部、Bifidobacterium longum |
ナイアシン | B3 | 大半の腸内細菌、しかし、Firmicutes門とActinobacteria門の細菌は他より合成能を持つ細菌が少ない |
パントテン酸 | B5 | Bacteroidetes門、Proteobacteria門 |
ピリドキシン | B6 | 大部分のActinobacteria門、Bacteroidetes門およびProteobacteria門 |
ビオチン | B7 | Bacteroidetes門、Fusobacteria門、大部分のProteobacteria門 |
葉酸 | B9 | Bacteroidetes門、Fusobacteria門、Proteobacteria門 Bacteroides属、Bifidobacterium属、Streptococcus属、Lactococcus spp. |
コバラミン | B12 | Fusobacteria門、Bacteroidetes門の一部、Clostridia綱、Lactobacillus reuteri* |
メナキノン | K | Bacteroides fragilis*, B. ovatus*, B. vulgatus*, B. thetaiotaomiciron* など |
食事に含まれるビタミンの多くは小腸から吸収される。一方、大腸にもビタミンB群の吸収にかかわる各種トランスポーターが発現していることがわかっており(ただし、ピリドキシンおよびコバラミンを吸収するトランスポーターは今のところ大腸で見出されていない)、ピリドキシンとコバラミンを除き、大腸内の細菌により産生されたビタミンは大腸から一部吸収され、宿主の栄養や生理に貢献していると考えられる。つまり、ヒトはビタミンを生合成できないため(ナイアシンを合成することは可能)、食事や腸内細菌由来のビタミンに依存している。しかし、大腸で産生される各種ビタミンがどの程度宿主に取り込まれ、宿主の栄養に寄与しているかはいまだよくわかっていない。
一方、ビタミンを合成できない腸内細菌はそれらを菌体外からトランスポーターを介して取り込んでいる。そのため、大腸では腸内細菌と宿主がビタミン獲得において競合する。大腸内に供給されるビタミン量が低下すれば、それに依存する細菌種の生存や増殖に影響し、腸内細菌叢の構成にも多大な影響を及ぼしうる。
(西村直道)