ラクチュロースは難消化性オリゴ糖の一種で、フルクトースの4位のヒドロキシル基にガラクトースがβ結合した二糖類(4-O-β-D-Galactopyranosyl-β-D-fructofuranose)である。一般に、乳糖を出発物質として異性化法によって工業的に生産されており、天然には存在しないとされているが、生乳を殺菌して得られる牛乳等には微量に含まれている。食品として利用される場合はラクチュロース、医薬品として利用される場合はラクツロースと表記されることが多い。1957年に経口摂取によって便中のビフィズス菌を増やすことが初めて見いだされ、現在はプレバイオティクスの1種に位置づけられている。1960年にはラクチュロースが配合された育児用調製粉乳(粉ミルク)が国内において上市された。
経口摂取されたラクチュロースは胃や小腸で消化されず、またほとんど吸収されることなく、大部分がそのまま大腸に到達する。食品表示基準では炭水化物(糖類)に分類されるが熱量は2 kcal/gであり、血糖値(血中グルコース濃度)や血中フルクトース濃度、血中インスリン濃度に影響を与えない。呼気水素ガス試験で水素ガスが検出されることから、盲腸付近では種々の腸内細菌によって資化されると推測されるが、糞便の菌叢解析を行うと主にビフィズス菌が増えている(ビフィズス菌はラクチュロースの代謝時に水素ガスを生じない)。ヒトの大腸に常在するビフィズス菌の多くはラクチュロースを資化できるが、この時LT-SBP(ラクチュロースに結合する基質結合タンパク質)を有するABC輸送体やLacS(ガラクトシド共輸送体)を介して取り込むことが明らかにされている。
ビフィズス菌はラクチュロースの代謝産物として、乳酸のほか、短鎖脂肪酸の一種である酢酸を放出する1)。腸内のビフィズス菌を増やすのに有効なラクチュロースの摂取量についてヒト臨床試験結果が幾つか報告されているが、成人における最も少ない摂取量として、0.65 gのラクチュロースを含むヨーグルトとプラセボヨーグルトの比較で、ラクチュロースを含むヨーグルトの方が有意に便中のビフィズス菌が多かったという報告例がある2)。おおむね5 g/日以下の低用量ラクチュロースの摂取によって、ビフィズス菌が増えて腸内環境が改善されたり短鎖脂肪酸が刺激になって蠕動運動が活性化されたりすることで便通の促進に繋がると考えられており、ラクチュロースは特定保健用食品の関与成分として、また機能性表示食品の機能性関与成分として活用されている。医薬品ラクツロースとして一度に大量に投与した場合においては、腸内の浸透圧が高まることによって管腔内の水分の保持量が増加し、緩下薬(下剤)として作用する。また、ラクツロースは肝性脳症の原因である高アンモニア血症の治療薬としても利用されている。これは、緩下作用を介した消化管内容物の排泄促進作用によるもののほか、ビフィズス菌等の腸内細菌に資化されることをきっかけとした腸内アンモニア産生量の低下作用、アンモニアの吸収阻害作用を介したものであると考えられている。
参考文献:
1) 渡部恂子:腸内糖代謝と腸内細菌.腸内細菌学雑誌.2005; 19: 169–177.
2) Tomoda T, Nakano Y, Kageyama T.: Effect of yogurt and yogurt supplemented with Bifidobacterium and/or lactulose in healthy persons: a comparative study. Bifidobacteria and Microflora. 1991; 10: 123–130.
(境 洋平)