Akkermansia muciniphilaはVerrucomicrobia門に属するグラム陰性の偏性嫌気性細菌である。2004年にDerrienらによって健康なヒトの糞便から分離され、新菌属Akkermansiaとして提唱された(1)。属名は、オランダの著名な微生物学者Antoon Akkermansに由来する。腸管細胞から分泌されるムチン(糖タンパク質)を唯一の炭素・窒素源として利用するユニークな特徴を持つため、A. muciniphila (mucin-loving)と名付けられた。これまでに分離・分類されたAkkermansia属細菌は2種で、当該種とA. glycaniphila(アミメニシキヘビの糞便から分離)のみである。ただ、培養に成功していないがゲノム情報を基に、鳥類の糞便由来であるCandidatus Akkermansia intestinaviu、Candidatus Akkermansia intestinigallinarumが新種候補として提案されており、今後、種の数が増えることが予想される。
A. muciniphilaはヒト、マウス、チンパンジー、馬、豚などの動物の腸管に存在することが確認されている。A. muciniphilaは特に結腸に多く、健康な成人では菌叢全体の0.5–5%を占めることや、生後1カ月の乳児糞便から検出されはじめ、ヒトのライフステージで糞便中の量が変動することが報告されている(2)。
A. muciniphilaはムチンに含まれるN-アセチルガラクトサミンやN-アセチルグルコサミン、スレオニンが重要な栄養成分であるため、ムチン分解に関与する糖鎖加水分解酵素を持ち、ムチンをエネルギー源として、主にプロピオン酸や酢酸を生産する。一方、A. muciniphilaはヒトミルクオリゴ糖も分解できるとされ、乳児期の腸内定着に関与すると考えられている。
A. muciniphilaの腸内存在量は、正常人と比較して、肥満の人やⅡ型糖尿病の患者では少なく(3)、A. muciniphilaのマウスへの投与試験やヒト試験では、肥満やⅡ型糖尿病に対する改善効果が示され、次世代プロバイオティクスとして注目されている(4)。肥満・糖尿病の原因の1つとして、高脂肪食摂取による腸管バリア機能低下が引き起こす慢性炎症が挙げられるが、A. muciniphilaの外膜タンパク質(Amuc_1100)がTLR-2を介して腸管バリア機能を強化し、炎症を改善することが報告されている(5)。さらに、A. muciniphilaの分泌する細胞外小胞体が、高脂肪食を投与したマウスの腸管バリア機能の強化や体重の減少に関与することも報告されており(6)、A. muciniphilaの抗肥満・抗Ⅱ型糖尿病の作用機構が分子レベルで明らかになってきている。
(1) Derrien M. et al. Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 54(Pt 5), 1469-1476 (2004).
(2) Collado M. et al. Appl. Environ. Microbiol. 73(23), 7767–7770 (2007).
(3) Derrien M. et al. Microb. Pathog. 106, 171-181 (2017).
(4) Cani, PD. et al. Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol. 10.1038/s41575-022-00631-9 (2022).
(5) Ottman N. et al. PLoS One, 12(3), e0173004 (2017).
(6) Ashrafian F. et al. Front. Microbiol. 10, 2155 (2019).
(萩 達朗)