公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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菌体外多糖(exopolysaccharide)

菌体外多糖(exopolysaccharide; EPS)は、微生物が菌体表面に分泌・産生する多糖の総称で、環境ストレスなどから自身を保護する役割を有する。EPSは構成される糖の種類や数、結合様式によって多種多様な構造を有しており、増粘剤や安定化剤などの食品素材としての利用も為されている。微生物が合成するEPSは、構造的にホモ多糖(1種類の単糖のみの繰り返し単位で構成)とヘテロ多糖(少なくとも2種類の異なる糖から構成)の2種類に大別される。ホモ多糖類(デキストランやレバンなど)は菌体外の細胞表面で各単糖を酵素反応によって重合する。一方、ヘテロ多糖類は単糖を菌体内に取り込み、一定サイズのオリゴ糖を合成後、細胞外へ排出し、さらに酵素反応によって重合を行い多糖類として産生する。
EPSを合成する微生物の一つとして、セルロース生産能を有する酢酸菌の一種であるGluconacetobacter xylinusが良く知られており、ココナッツミルクを供給源としてセルロースを合成する。酢酸菌由来のセルロースは、植物由来セルロースと比較して、微細な網目構造を有し、リグニンなどを含まないことから、工業用素材としても利用されている。食品利用におけるEPSの代表例として、ヨーグルトのスターターとして用いられるStreptococcus thermophilusLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusは発酵過程でEPSを産生することで、ヨーグルトに粘性をもたせることで分離を防ぎ、まろやかな食感を付与することが知られている。特に、L. delbrueckii subsp. bulgaricusに属する特定の菌株が産生するEPSは、免疫系細胞の一種であるナチュラルキラー細胞からのInterferon-γ産生を高める結果、インフルエンザウィルスに対する抵抗性を示すことが報告されている。加えて、抗インフルエンザウィルスに対するImmunoglobulin (Ig)A抗体やIgG抗体産生も亢進することが示されている。また、EPSを高産生する乳酸菌として知られているLactococcus cremoris subsp. cremorisもまた、ヨーグルトに粘り気が特徴的な食感を与える。このように、微生物の菌種間、さらには菌株間においてもEPSの構造や性質は異なることが明らかにされており、EPSの有する保水性、浸透圧耐性、抗菌物質耐性などにも寄与する結果、環境ストレスなどからも菌体自身を保護することも示されている。
微生物が産生するEPSは、様々な生理作用を示すことが明らかになり始めている。難消化性多糖であるイヌリン、フラクトオリゴ糖やガラクトオリゴ糖はプレバイオティクスとしてビフィズス菌の生育や増殖を促すことが良く知られているが、Fructilactobacillus sanfranciscensisが産生するレバン型EPSもまた難消化性であるために、その構造を維持したまま大腸まで到達する結果、ビフィズス菌の生育・増殖を促すようなプレバイオティクス効果を示すことが報告されている。また、植物性乳酸菌であるLeuconostoc mesenteroidesが産生するEPSは免疫賦活効果など報告されており、糞便中IgA産生を促すことで、病原体やウィルスなどに対する感染予防に寄与する可能性が示唆されている。他にも、EPSの摂取によって抗アレルギー作用を示す報告も為されており、EPSは腸内環境を起点とした生体の免疫機能調節に寄与する可能性が期待できる。

(宮本潤基)