短鎖脂肪酸受容体は、細胞膜に存在する7回膜貫通型のGタンパク質共役受容体(G protein- coupled receptors: GPCRs)として知られており、これまでに、GPR41やGPR43、さらにはGPR109AおよびOlfr78が同定されている。なかでもGPR41とGPR43は代表的な短鎖脂肪酸受容体であり、2003年に短鎖脂肪酸をリガンドとするGPCRsとして同定された。細胞内シグナル伝達に関して、GPR41とGPR43はともにGi/o経路が活性化される結果、細胞内cAMP濃度の抑制とMAPKの活性化を引き起こす。また、GPR43については、Gq経路も活性化され、細胞内Ca2+濃度の上昇も伴うデュアルカップリング型GPCRsである。GPR41は、主に腸管の腸内分泌細胞や自律神経に高発現しており、特にプロピオン酸と強い親和性を示す。腸管においてはプロピオン酸が腸内分泌細胞であるL細胞あるいはK細胞のGPR41を介してPYY(peptide YY)やGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)の分泌調節に関与することで摂食量や糖・脂質代謝を制御することが示されている。また、交感神経節に発現するGPR41が、ノルアドレナリンの分泌誘導によりエネルギー代謝調節に寄与する。さらに近年では、門脈に分布する求心性迷走神経のGPR41がプロピオン酸の刺激により、中枢を介して腸管の糖新生を亢進することで、全身性のインスリン抵抗性を改善するなど、腸-脳連関を介して生体の糖代謝恒常性を維持に関与することが示唆されている。免疫細胞に発現するGPR41もまた、肺におけるTh2免疫応答の抑制や胸腺における 制御性T細胞(Treg)の分化に寄与することが報告されるなど、GPR41は内分泌系・神経系・免疫系を介して生体恒常性維持に寄与する受容体であると考えられている。一方、GPR43は、脂肪組織や腸管、膵島、免疫系細胞に高発現しており、酢酸やプロピオン酸と強い親和性を示す。GPR43が脂肪組織特異的にインスリンシグナルを抑制することで脂肪細胞への過剰なエネルギー蓄積を防ぎ、肥満抑制に寄与する。この他、GPR43の機能として、腸管におけるPYYやGLP-1(Glucagon-like peptide-1)の分泌促進や膵臓でのインスリン分泌促進、さらには腸管におけるTregの分化誘導や脂肪組織でのM2マクロファージ の機能制御に寄与することが報告されており、GPR43もまた代謝機能あるいは免疫調節作用を介して生体恒常性維持に寄与する受容体であると考えられている。さらに最近、妊娠中の母体腸内細菌叢に由来する短鎖脂肪酸が、胎児のGPR41・GPR43を介して、出生後、子の肥満に対する抵抗性を与えるなど子孫の代謝プログラミング決定にまで影響を及ぼすことが明らかになっている。
この他、短鎖脂肪酸受容体としてOlfr78やGPR109Aが同定され、機能解析が進められている。Olfr78は嗅覚受容体として知られていたが、血管での発現が確認され、短鎖脂肪酸を介してレニン分泌を促進することで、血圧調節に関与することが報告された。加えて、GPR109Aは内因性リガンドとしてナイアシン(ニコチン酸)やケトン体が知られているが、短鎖脂肪酸であるn-酪酸によっても活性化する。GPR109Aがn-酪酸を介して、小腸での免疫寛容誘導能を強化することで粘膜環境の維持、さらには経口免疫寛容による抗食物アレルギー作用を示すことが明らかにされている。
(大植隆司)