公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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制御性T細胞(regulatory T cell)

制御性T(regulatory T: Treg)細胞は、CD4+ヘルパーT細胞の中でも転写因子であるforkhead box P3(Foxp3)の発現する、免疫学的自己寛容と免疫学的恒常性の維持に寄与する、免疫抑制能を持つ細胞集団である。細胞表面に高親和性インターロイキン2受容体の要となるIL-2受容体α鎖(CD25)やcytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4(CTLA-4)の高発現を特徴とする。胸腺で分化するthymic derived Treg(tTreg)細胞と末梢でナイーブCD4+ T細胞から分化するperipherally-induced Treg(pTreg)に大別され、後者は粘膜関連リンパ組織や下部消化管が主な分化誘導組織である。なお、in vitroでナイーブCD4+ T細胞より分化誘導されたTreg細胞はinduced Treg(iTreg)細胞と、別個呼称される。Treg細胞の中でもB細胞濾胞への遊走能を獲得し、体液性免疫応答を制御する機能を持った集団を、濾胞制御性T(follicular regulatory T: Tfr)細胞として、Treg細胞とは独立した細胞集団として定義している。Treg細胞の欠損や、免疫抑制機能の低下に起因する疾患がimmune dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, and X-linked(IPEX) 症候群である。Ⅰ型糖尿病のような自己免疫性疾患や炎症性腸疾患等の数々の症状を発症する。

Treg細胞の免疫抑制能として、主に以下の3つが提示されている

  1. CTLA-4によって、樹状細胞表面の共刺激分子であるCD80/CD86の発現を減少させて、ナイーブT細胞の活性を阻害すること。
  2. 高発現するCD25によってIL-2を消費することでエフェクターT細胞の増殖を抑制すること。
  3. 免疫抑制性のサイトカインであるIL-10やアデノシンを産生することでエフェクターT細胞の増殖とサイトカインの産生を抑制すること。

pTreg細胞の分化にはクロストリジウム目(Clostridiales)を筆頭に、腸内細菌が難消化性炭水化物を資化して産生する短鎖脂肪酸が関わっていることが判明している。短鎖脂肪酸の中でもpTreg細胞の分化誘導能が最も高いのが酪酸である。酪酸は、ヒストン脱アセチル酵素阻害能を示し、 Foxp3 遺伝子の発現調節領域のヒストンのアセチル化を促進することでFoxp3の遺伝子発現を誘導することでpTreg細胞の分化を誘導するメカニズムが提唱されている。また、酪酸は樹上細胞にも作用することで、免疫寛容型樹状細胞を誘導するが、この細胞もall-trans retinoic acid(atRA)やtransforming growth factor β1(TGF-β1)の産生を介してpTreg細胞分化の促進に寄与している。腸管でTreg細胞の分化が誘導されることは、腸内細菌に対する免疫寛容を成立させて、宿主と腸内細菌の共生関係を成立させて、個体毎に異なる腸内細菌叢を維持する上で必須である。また、食物抗原に対するpTreg細胞が誘導されることは、経口免疫寛容を担保する主要なメカニズムの一つであると考えられている。しかしpTreg細胞は、炎症環境下ではそのFoxp3の発現を喪失してTh17細胞の再分化することが知られており、関節リウマチなどの自己免疫疾患においてはpTreg由来のTh17細胞が炎症を増悪させる機能を持つ事が知られている。

(高橋大輔)