腸内細菌叢と宿主臓器には密接な関係があり、腎臓と腸内細菌叢は相互に影響を及ぼし合うことから「腎腸相関」と呼ばれている。例えば、腎臓病患者の腸内細菌叢がdysbiosisを起こしていることが報告されている(1)(2)。また、動物実験において、腎障害誘発処置により腸内細菌叢が数日で変化することも報告されている(3)。これらのことから腎臓と腸内細菌叢は密接に関連していることが示唆されているが、腎障害によりどのような機序でdysbiosisが起こるのか詳細は不明である。一方、腸内細菌叢が遠隔臓器である腎臓へ及ぼす影響については、腸内細菌の代謝産物、菌体成分の体内及び臓器流入などの関与が推定されている。
代謝産物としては、腸内細菌叢で産生される短鎖脂肪酸について比較的研究が進んでおり、酢酸、プロピオン酸、酪酸の投与により、腎障害マウスの腎機能障害が改善されたことが確認されている。近年、腸内細菌の代謝産物として新たに同定されたD-アミノ酸、殊にD-セリン(3)やD-アラニン(4)が腎機能と相関しており、腎障害に対して保護的に働くことが報告されている。また、腎不全において体内に蓄積する尿毒症物質のいくつかは腸内細菌叢由来代謝産物であることが判明しており、慢性透析患者において大腸切除を受けた症例では血中インドキシル硫酸などの尿毒症物質が減少することも報告されている。
腸内細菌の代謝産物のみならず、菌体および菌体成分が直接体内に移入することも報告されている。慢性腎臓病患者の血中メタ16S 解析では、健常者とのプロファイルが異なることが判明している。また、糖尿病性腎臓病においては、腸管バリア機能の低下により、腸内細菌の1種であるKlebsiella oxytocaが体内へ移入し、腎固有細胞を直接障害するだけでなく、全身炎症にともなう高IL-17血症が、腎障害の病態に関与していることが明らかとなっている(5)。その他、脳などの神経系を介した腎臓と腸管との関連なども報告されており、徐々に腸内細菌叢と腎臓病の詳細なクロストークが明らかになってきている。
(1) Hobby GP. et al. Am J Physiol Renal Physiol. 316, F1211 (2019).
(2) Kobayashi T. et al. Toxins (Basel). 13, 369 (2021).
(3) Nakade Y. et al. JCI Insight. 3, e97957 (2018).
(4) Iwata Y. et al. Am J Physiol Renal Physiol. 322, F667 (2022).
(5) Linh H. et al. J Am Soc Nephrol. 33, 1105-1119 (2022).
(中出祐介)