公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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AhR(芳香族炭化水素受容体)(Aryl hydrocarbon receptor)

AhRはダイオキシン類の受容体として同定されたリガンド活性化型の転写因子である。AHRは歴史的にはダイオキシン類の毒性との関係が注目されてきたが、近年の研究により、腸管の恒常性維持においても重要な役割をはたしていることが明らかになってきている。AhRはダイオキシン類だけでなく宿主由来や食物由来、そして腸内細菌由来の多くの芳香族化合物をリガンドとする。腸内細菌由来のAhRリガンドとしては、芳香族アミノ酸の一つであるトリプトファンから産生される代謝物が注目されている。腸内細菌はトリプトファンをインドールやインドール-3-酢酸、インドール-3-乳酸、インドール-3-アルデヒド、インドール-3-エタノール、トリプタミンなど様々な代謝物に変換することが知られるが、これら代謝物の多くがAHRリガンドとして働く。
AhRは腸管上皮や腸管免疫細胞に発現しており、腸管バリア機能や腸管免疫機能に深く関わっている。AhRは腸管上皮幹細胞の制御に関わっており、AhRの活性化により腸管上皮の分化が促進される。また、腸管におけるAhRの活性化は腸管免疫の調節を介して、腸管炎症に対して抑制的に働くことがわかっている。加えて、AhRは腸管粘膜固有層に存在する3型自然リンパ球の維持と機能制御に密接に関わっており、インターロイキン22の発現誘導を介して感染防御に寄与すると考えられている。また、腸管ニューロンもAhRを発現していることが報告されており、AhRは腸管の蠕動運動に関与することも示唆されている。これらのことから、AhR は腸内環境に応じて腸管機能を調節する統合的な環境センサーとして働いていると考えられている。

参考文献:
(1) 青木玲二,青木綾子.化学と生物.60(4), 189–198(2022).
(2) Rothhammer V., Quintana F. J. Nat Rev Immunol. 19(3), 184–197 (2019).
(3) Stockinger B., Shah K., Wincent E. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 18(8), 559-570 (2021).

(青木玲二)