公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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腸内細菌利用糖(microbiota-accessible carbohydrates:MACs)

食物繊維などの難消化性炭水化物(糖)は、腸内細菌の主要な栄養源になることから、腸内細菌叢の構成や代謝に大きな影響を与えることが知られている。例えば、食物繊維を多く含む食物を摂取すると、腸内細菌の有益な代謝物である短鎖脂肪酸 (short-chain fatty acids, SCFAs)などの産生が促進され、腸内細菌叢の多様性が増加する。米国Stanford University School of MedicineのJustin L. Sonnenburg博士らは、本質的には発酵性食物繊維と同等であるが、食物繊維の資化に必要な酵素を持つ腸内細菌が、栄養基質として利用できる炭水化物として「微生物叢アクセス可能炭水化物Microbiota-Accessible Carbohydrates, MACs」(腸内細菌利用糖)という概念を提唱した(1)。MACsは、食事だけでなく、宿主に由来することもある。食餌性のMACsは、植物・動物組織・食品由来の微生物など、さまざまな供給源に由来し、腸内細菌叢によって代謝可能なものである。食餌性MACsの欠乏は、腸内細菌叢がムチン糖鎖などの宿主由来の内因性MACsに栄養源を依存する原因となり、腸管バリア機能を破綻させる可能性が示唆されている(2)
 難消化性炭水化物が腸内でMACsとして機能するかどうかは、その物理的・化学的特性だけでなく、個人の保有する腸内細菌叢が、難消化性炭水化物を代謝する酵素を持っているかにもよる。例えば、セルロースは腸内細菌によって消化されないため、難消化性炭水化物であるが腸内でMACとして機能しない。MACsは多様で、構造的に不均一性を持ったオリゴ糖および多糖類のグループであり、各MACによって腸内細菌叢に異なる影響を及ぼす。どの炭水化物が利用されるかは各個人のマイクロバイオームによって異なる。しかし、各MACが腸内環境や宿主生理機能に与える影響の違いについてはまだ不明な点が多く残されている。多くの難消化性炭水化物の特性を知ることにより、これらをMACsとして活用することにより、個人の健康状態に応じた腸内環境介入(プレシジョン・マイクロバイオーム・モジュレーション)が可能になると考えられている(3)

(1) Sonnenburg, E.D., Sonnenburg, J.L. Starving our microbial self: the deleterious consequences of a diet deficient in microbiota-accessible carbohydrates. Cell Metab. 20, 779–786, doi:10.1016/j.cmet.2014.07.003 (2014).
(2) Desai, M. S. et al. A Dietary Fiber-Deprived Gut Microbiota Degrades the Colonic Mucus Barrier and Enhances Pathogen Susceptibility. Cell. 167, 1339–1353 e1321, doi:10.1016/j.cell.2016.10.043 (2016).
(3) Tomioka, S. et al. Cooperative action of gut-microbiota-accessible carbohydrates improves host metabolic function. Cell Rep. 40, 111087, doi:10.1016/j.celrep.2022.111087 (2022).

(金 倫基)