公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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芽胞(endospore)

芽胞はバシロータ門(Bacillota)に含まれる細菌が形成する特殊な細胞で、一般的に長期休眠能と熱や化学薬品等に対する耐性を備えている。芽胞形成細菌が栄養増殖期から芽胞形成期に移行すると、DNA複製を終えた細胞が不等分裂して大小2つの娘細胞に分かれる。大きな細胞を母細胞(mother cell)、小さな細胞をプレスポア(prespore)と呼ぶ。プレスポアは母細胞の細胞膜に包み込まれてフォアスポア(forespore)になる。この過程をエンガルフメント(engulfment)と呼ぶ。エンガルフメントは芽胞形成細菌に特異的な現象であり、母細胞内に存在するフォアスポアが発達して成熟芽胞(mature spore)になることから、芽胞は内生胞子とも呼ばれる。芽胞は中心部から順に、栄養細胞の細胞質に相当するコア(core)、内膜(inner membrane)、コルテックス(cortex)、外膜(outer membrane)、スポアコート(spore coat)で構成されている。コア内には染色体DNAが存在し、細胞質膜に相当する内膜の外側はコルテックスとスポアコートで包まれている。また、コア内にはジピコリン酸カルシウムが大量に存在し、高度な脱水状態が維持されることで核酸やタンパク質などの生体分子が保護される。コルテックスの主成分はペプチドグリカン、スポアコートの主成分はタンパク質である。菌種によっては、スポアコートの外側に袋状の構造体であるエキソスポリウム(exosporium)が存在するが、その役割は不明である。アミノ酸やグルコースなどの糖により芽胞の発芽が誘導されると、コルテックスとスポアコートの分解が進み、コア内に水が浸入し、ジピコリン酸カルシウムが放出される。発芽した芽胞では転写や翻訳などが復活し、発芽後成長を経て栄養増殖期に移行する。芽胞形成細菌はヒトの健康や、疾患、日常生活と密接に関係しており、最も身近な存在は腸内細菌叢を構成する多種多様な偏性嫌気性芽胞形成細菌である。Bacillotaに分類される腸内細菌が実際に腸内で芽胞を形成していることが顕微鏡下で観察されている。また、芽胞形成細菌として知られる、納豆菌(枯草菌亜種 Bacillus subtilis subsp. subtilis の一系統)や、酪酸産生菌であるクロストリジウム・ブチリカム( Clostridium butyricum )の一部菌株などは、プロバイオティクスとして利用されている。これらの芽胞は胃酸に耐性で、腸内で発芽・増殖し、腸内環境を整える機能があると考えられている。一方で、炭疽菌( Bacillus anthracis )、ボツリヌス菌( Clostridium botulinum )、破傷風菌( Clostridium tetani )などの病原性芽胞形成細菌はヒトや動物に致死的な感染症を引き起こし、非病原性芽胞形成細菌であっても食品・飲料などの汚染菌となる場合がある。芽胞は加熱や紫外線照射などの殺滅処理に高い抵抗性を示すことから、芽胞を確実に防除するためには、一般細菌と比較して高度な殺滅処理が求められる。

(高松宏治)