公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


PAGE
TOP

筋腸相関(muscle-gut interaction)

 骨格筋は血液から取り込んだ栄養素を,身体活動のエネルギーや筋タンパク質の基質として代謝する。食物を消化し,栄養素の吸収を担う腸は,骨格筋代謝の基質供給を支えている。また腸は,体内と体外(管腔内)を隔て,異物の進入を防ぐ生体防御の役割を果たす。すなわち,腸は腸管上皮細胞間の密着結合やリンパ球などの免疫システムにより,物理的および化学的に有害物質の侵入を防ぐバリアとして働く。このバリア機能が障害されると,細胞間隙から血液中へ侵入した有害物質が,炎症や代謝障害を惹起する。骨格筋では,炎症性サイトカインの増加とともに,インスリン感受性の低下やタンパク質分解の亢進が生じる。

 腸内細菌の代謝産物が,血液循環や神経経路を介して骨格筋代謝を調整することもわかってきた。短鎖脂肪酸や遊離胆汁酸などの物質が糖代謝やタンパク質合成のシグナル系を活性化することが報告されている。さらに,運動能力や運動習慣による代謝能の向上にも腸内細菌が関与する。そのため,健全なバリア機能や腸内環境は,骨格筋の代謝を制御し,代謝疾患やサルコペニアの予防,ならびに運動機能の維持・向上に寄与する。

  一方,骨格筋は生理活性物質マイオカインを分泌することで全身の機能に干渉する分泌臓器として働く。腸の様々な機能がマイオカインによって影響を受ける。腸には免疫を担う細胞が多く集積するが,マイオカインがリンパ球やマクロファージに作用してそれらの局在や抗炎症因子の産生を調整する。また,マイオカインのなかには,アポトーシス経路を活性化して大腸発がん予防に寄与するものや,腸内分泌細胞からのインクレチン分泌を促進し,インスリンの分泌や感受性を高めるものもある。

 筋収縮によって生成が高まる乳酸もエネルギー基質やシグナル因子として働くことが明らかになり,マイオカインの一つとして認識されている。また運動時に生じた乳酸が,腸内細菌( Veillonella atypica など)によってプロピオン酸に代謝され,再び骨格筋へ運搬されてエネルギー代謝を高める。このことが,長距離ランナーの持久能力に寄与することが示唆されている。

 このように,身体活動を支える骨格筋と物質吸収の取捨選択を行う腸の間には,血液循環あるいは神経経路を介したコミュニケーション“筋腸相関”があり,相互に機能を支えている。

(青井 渉)

参考文献:
 Ellingsgaard H, et al, Nat Med. 2011; 17: 1481-1489.(マイオカインが腸のインクレチン分泌を促進)
 Aoi W, et al. Gut. 2013; 62: 882-889.(マイオカインが大腸前がん病変を抑制)
 Scheiman J, et al. Nat Med. 2019; 25: 1104-1109.(腸内細菌が長距離ランナーの持久能力に寄与)
 Aoi W, et al. iScience. 2023; 26: 106251.(便移植による骨格筋代謝の改善)
 Song Q, et al. Front Nutr. 2024; 11: 1429242.(腸内細菌とサルコペニア関係の総説)