公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

用語集


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MAG(Metagenome-Assembled Genome)

糞便や土壌等の環境サンプルから得られたメタゲノム配列をアセンブリし、得られた長めの断片配列であるコンティグ配列を、連続塩基頻度やサンプル中の配列の存在量等の情報を用いてクラスタリングを行い、個別の微生物系統ごとにコンティグ配列を集めた仮想的なゲノム配列それぞれのことをMAGと呼ぶ。コンティグ配列をクラスタリングする操作をbinning(ビニング)と呼び、MetaBAT2やSemiBin2など、さまざまなツールが開発され利用されている。個々のMAGは、ショートリードシーケンサー由来のメタゲノム配列を用いた場合は通常は数十本から数百本のコンティグ配列から構成されており、ロングリードシーケンサー由来のメタゲノム配列を用いた場合には、環状の染色体が1本のコンティグで構成された完全ゲノム配列が得られる場合もある。binningの過程ではコンティグの再構築は行わないため、メタゲノムアセンブリ結果の質がMAGの完成度を左右する非常に重要な要因となる。MAGは培養を経ずに微生物のゲノム情報を取得できる点が強力であり、微生物の多様性解明や生態の推定に広く用いられている。ただし、配列のパターンを用いてクラスタリングを行っているため、GC含量が他の領域と異なる水平伝播領域や、そもそもアセンブリで繋がりにくくかつ配列のパターンも他の領域と異なるrRNA遺伝子領域などは、MAGの中に含まれにくい点に注意が必要である。また、近縁系統のゲノムは配列のパターンが類似しているため、同じ環境に存在する複数の近縁系統のゲノム断片が混ざったキメラ状のMAGになっている可能性もある点に注意が必要である。MAGの精度評価には保存性が高くゲノム中に1コピーのみ存在するシングルコピー遺伝子のセットがどの程度見つかるか(completeness)、および各遺伝子が1コピーのみ見つかるか(contamination)の2つの統計指標が広く用いられており、解析の目的に応じて、例えばcompleteness >60%、contamination <10%を満たすMAGのみ使用する等、高精度のMAGのみ解析に使用することが多い。MAGを用いることで原核生物の系統的な多様性の解明が大幅に進展しており、培養は出来ず正式に系統は記載できていないが、ゲノム配列はわかっている仮説的な系統が多数存在する現状を作り出す大きな要因にもなっている。

(森 宙史)