公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

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ポストバイオティクス(postbiotics)

ポストバイオティクスとは International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics(ISAPP)により、「宿主の健康に良い効果をもたらす無生物形態の微生物、および/またはそれら微生物の細胞構成成分を用いた調製物」(原文 A postbiotic is a preparation of inanimate microorganisms and/or their components that confers a health benefit on the host.)と定義されている(1)。このため、ポストバイオティクスには微生物の死細胞や細胞壁、細胞膜、鞭毛、線毛などの細胞構成成分が含まれる。なお、ポストバイオティクス製品にはその微生物由来の代謝産物(有機酸、ペプチド、分泌タンパク質、バクテリオシンなど)が含まれていることがあるが、上記定義の通り、これらの代謝産物単独ではポストバイオティクスとはならない。死細胞や細胞構成成分と共存していることが必要である。また、ワクチンやウィルスもポストバイオティクスではない。

ポストバイオティクスによりもたらされる健康効果は微生物細胞やその細胞成分、またはこれらと共存する代謝産物によるものと考えられることから、プロバイオティクスと類似したメカニズムであることが想定されている。

また、ポストバイオティクス製品には死細胞由来の成分が含まれている一方で細菌生細胞が含まれていないため、食品利用の際にプロバイオティクスよりも以下の点で優れていることが考えられる。

  • 1) 製品の安定性に優れている(低温貯蔵を必要としない)
  • 2) 製品からの再分離による知的財産面でのリスクが低い
  • 3) 安全面でのリスクが低い(感染を起こさない)

特に、「安全面でのリスクが低い」というのは、食経験のない腸内細菌を食品利用する際に非常に重要である。実際、次世代プロバイオティクスとして注目されていた腸内細菌 Akkermansia muciniphila の生菌を食品利用するための安全性適格推定(Qualified Presumption of Safety: QPS)は欧州食品安全機関(EFSA)に承認されなかったが、死菌体としての新規食品素材(Novel Food)としての利用は承認された(2)。

一方で、ポストバイオティクスは生菌ではないため、腸内に定着し、継続的な効果を得るということは期待できない。

ポストバイオティクスの定義に関しては、上述の ISAPP による定義の他に幾つかがこれまでに報告されている。しかし、それらの多くはポストバイオティクスをプロバイオティクスの死菌体に限定していたり、最も重要となる「摂取による健康効果」が必須となっていないなどの問題があることから、現在までのところ ISAPP の定義が科学的な妥当性の面において最もバランスに優れた定義と評価されている。

参考文献

(1)Salminen S, Collado MC, Endo A, Hill C, Lebeer S, Quigley EMM, Sanders ME, Shamir R, Swann JR, Szajewska H, Vinderola G. The International Scientific Association of Probiotics and Prebiotics (ISAPP) consensus statement on the definition and scope of postbiotics. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 18(9), 649–667 (2021).

(2)EFSA Panel on Nutrition, Novel Foods and Food Allergens (NDA); Dominique Turck, Torsten Bohn, Jacqueline Castenmiller, Stefaan De Henauw, Karen Ildico Hirsch-Ernst, Alexandre Maciuk, Inge Mangelsdorf, Harry J McArdle, Androniki Naska, Carmen Pelaez, Kristina Pentieva, Alfonso Siani, Frank Thies, Sophia Tsabouri, Marco Vinceti, Francesco Cubadda, Thomas Frenzel, Marina Heinonen, Rosangela Marchelli, Monika Neuhäuser-Berthold, Morten Poulsen, Miguel Prieto Maradona, Josef Rudolf Schlatter, Henk van Loveren, Reinhard Ackerl, Helle Katrine Knutsen. Safety of pasteurised Akkermansia muciniphila as a novel food pursuant to Regulation (EU) 2015/2283. EFSA J. 19(9), e06780 (2021).

(遠藤明仁)