皮膚や消化管、呼吸器、泌尿器など、生体と外部環境との境界面を形成する単層または重層の上皮細胞シートによる防御システムを「上皮バリア」と総称する。上皮バリアは、生体内部の成分が外部へ自由に拡散するのを防ぐとともに、病原微生物や有害物質の侵入を阻止し、生体恒常性の維持に重要な役割を果たしている。
腸管などの粘膜では、栄養素、イオン、水分など生命維持に必要な物質を選択的に取り込みながら、有害な異物の侵入を防ぐ必要がある。そのため、上皮細胞間に形成されるタイトジャンクション(tight junction:TJ)は、Claudinなどの分子を介して細胞間隙の透過性を制御し、物理的バリアを形成する。加えて、杯細胞から分泌されるムチンは粘液層を形成し、特に大腸では微生物が上皮細胞表面へ直接接触するのを防いでいる。また、上皮細胞はディフェンシンなどの抗菌ペプチドやREG3β、REG3γなどの抗菌レクチンを産生する。さらに、上皮細胞の基底側膜にはポリIg受容体(polymeric immunoglobulin receptor:pIgR)が発現しており、粘膜固有層の形質細胞から産生されたJ鎖を含む二量体IgAと結合し、トランスサイトーシスによって管腔側へ輸送する。このようにして分泌されたIgAは、微生物の上皮への接着や侵入を抑制する。
上皮細胞は単なる物理的障壁ではなく、外部環境の変化を感知し、その情報を免疫系へ伝えるセンサーとしても機能する。例えば、サルモネラ感染では、ヒト腸管上皮細胞からCXCL8/IL-8などのケモカインが産生され、好中球の遊走が促される。一方、小腸のタフト(tuft)細胞は寄生虫などの存在を感知してIL-25を産生し、2型自然リンパ球(ILC2)の活性化を促進する。
これらの上皮バリア機能は、上皮細胞のみで完結するものではなく、常在細菌や免疫細胞との相互作用によって維持されている。特定の腸内細菌はTh17細胞の分化を誘導するとともに、腸内細菌やその代謝物はILC3の機能を調節する。これらの細胞から産生されるIL-17AやIL-22は上皮細胞に作用し、抗菌ペプチドの産生などを促進する。このように、上皮細胞、免疫系、常在菌の三者が緊密に協調することで、正常なバリア機能が維持されている。
一方、炎症性サイトカインの過剰産生や腸内細菌叢の異常などによって上皮バリアが破綻すると、腸管透過性が亢進し、微生物やその構成成分、代謝物などが生体内へ侵入しやすくなる。こうした腸管透過性の亢進は、しばしば「リーキーガット」と表現され、感染症や炎症性腸疾患、アレルギーをはじめとするさまざまな疾患の発症や増悪との関連が報告されている。
(長谷耕二)