公益財団法人 腸内細菌学会/腸内細菌学会 Japan Bifidus Foundation(JBF)/Intestinal Microbiology

研究トピックスと過去のお知らせ


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光岡前理事長のメチニコフ賞受賞のご紹介

平成19年5月22日

理事長 上野川修一

当財団の前理事長 光岡知足先生は、2007年5月17日にモスクワ市で開催された国際酪農連盟(IDF)主催の「発酵乳の製造技術と栄養に関する地域会議」においてとり行われた授賞式で、世界最高峰の国際賞であるメチニコフ賞を受賞されました。財団にとりましても真に喜ばしいことであり、お祝いを申し上げますとともに会員の皆様方にお知らせします。

この賞は、メチニコフが比較生物学的観点から人類生存の在り様を洞察し、老化の科学的研究の重要性を説き、それに加えて自らの倫理観をまじえて著した不朽の書(英語版) " The Prolongation of Life : Optimistic Studies " ( 1908年出版) 〔日本語訳本※は末尾に紹介〕が出版されて100年になることを記念して、国際酪農連盟がパスツール研究所(仏国)及びISAPP ( International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics ) の協賛を得て設けた賞であります。しかも今回一回限りの賞であり、発酵乳に関して最も優れた研究業績を挙げた科学者に授与される国際賞であります。微生物部門、バイオテクノロジー部門、栄養と健康部門の3部門に分けられ、各部門ごとに一名の授与であったので、3名が受賞対象者となりました。その一人として選ばれた光岡先生は微生物部門での受賞であります。 先生は困難とされていた腸内細菌の培養法に改良を加え、乳児、成人及び老人、また、健康者及び各種疾病患者から、さらに食事習慣の違う人達から多数の糞便試料を集め、培養と菌数計測を行って、糞便の性状と合せて考察を重ねられました。それらに加えて検出される腸内菌叢構成菌の分類を効率的に行うシステムを開発されました。それによれば構成菌の70~80 % は培養が可能になっているとされています。

次いで先生は得られた膨大な検査成績を総合的に考察されて、「腸内菌叢とからだとの関わり合い」という仮説にまとめて1969年に発表されています。腸内菌叢構成菌を宿主と共生関係にある菌群と潜在的に病原性を有する菌群に分け、その構成比率が腸内菌叢の性状として表れること及びその構成バランスによって宿主の健康状態も影響されるという仮説であります。これはメチニコフが提唱した説をさらに具体的にまとめられたもので、先生のその後のご研究はまさにその実証にあったといえましょう。その成果は本邦における当該領域の研究と製品の開発に明確な方向付けをしたことになり、極めて大きな意義があったといえます。

その後、本邦では食品の機能性が話題となり、生活習慣病がクローズアップされ、特定保健用食品の制度化が進み、機能性素材の有用性が評価されるようになって、腸内菌叢を改善し、お腹の調子を良くする多くの特定保健用食品が登録、発売されるに至りました。それらの先駆けとなった光岡先生のご研究は高く評価されるものであります。そればかりか、この菌叢内の各菌のバランスを有用菌が優勢な状態に改善し、維持することが健康の増進に良いとする考え方は1990年代に欧米の研究者らによるプロバイオティクス、プレバイオティクスの定義に影響を与え、受け継がれているといえます。さらに、先生はプロバイオティクス、プレバイオティクスには含まれず、腸内菌叢を介することなく、免疫賦活、コレステロール低下、血圧降下、整腸、抗腫瘍、抗血栓、造血などの生体調節・生体防禦・疾病の予防と回復・老化制御などに直接的に働く食品成分をバイオジェニックスと称することを提案されています。長寿の夢を各人が全うする過程において、これらの働きは重要であり、先生はそれらの研究によってメチニコフが求めた仮設の実証をさらに進めようと考えておられるのでしょう。この分野の研究においても先生は多くのご功績があります。

当財団はメチニコフの原著書が出版されて100年目を記念する意味で、また、財団の設立25周年記念事業の一環として訳本の復刊(末尾注 ※ 参照)を企画し、幸 書房のご協力があって、同書は昨年6月に出版されました。その企画立案の端緒に光岡先生のご提案があったことと、同書には先生の復刊序文があることを付記しておきます。そして、このことと今回受賞されたことを考えますと、メチニコフと光岡先生の間には我々にわからない時代を超えた強いつながりがあり、多くの賞を得られている先生にとって今回の受賞はそのご研究に最も相応しい最高の受賞に思われます。

  1. 本邦で最初に当該著書の訳本を発行(1919年)された大日本文明協会は、その例言でこの有名な著書の原名は " Etudes optimists sur Vieillesse,Longevite, et Morts naturelle " であると記載されている。そして同協会の要請で中瀬古六郎氏が翻訳を担当された。 中瀬古六郎訳「不老長寿論」(大日本文明協会発行 1919年)
  2. 後年の訳本は訳者あとがきによると" ESSAIS OPTIMISTES " ( 1907 年) の完訳という。
    平野威馬雄訳「長寿の科学的研究」(科学主義工業社発行 1942年)
  3. 上記訳本「長寿の科学的研究」の復刊に際しては「長寿の研究-楽観論者のエッセイ-」と改題することで訳者のご息女平野レミ氏の了解を得て進められた。
    平野威馬雄訳「長寿の研究―楽観論者のエッセイ」(復刊編集責任 公益財団法人 腸内細菌学会 復刊序文 光岡知足幸書房発行2006年)
  • 光岡前理事長 写真1
    ポスター展示の前で
  • 光岡前理事長 写真2
    受賞式後に壇上にて